PERSON

2026.07.02

ソフトバンクの若き左腕・前田悠伍はなぜ一気に覚醒したのか――“エース候補”の現在地

パ・リーグ3連覇を目指す福岡ソフトバンクホークスは、2026年シーズンも埼玉西武ライオンズ、北海道日本ハムファイターズと首位争いを繰り広げている。そのなかで、今季一気に存在感を高めているのがプロ3年目の左腕・前田悠伍だ。高校時代から見続けてきた、成長の軌跡を振り返る。

前田悠伍はなぜ一気に覚醒したのか――ソフトバンク若き左腕が見せる“エース候補”の現在地

一軍定着で一気にブレイク――数字が証明する安定感

パ・リーグ3連覇を目指すソフトバンク。現在も西武、日本ハムと首位争いを演じているが、そんなチームで今シーズン大きな飛躍を遂げているのが3年目の前田悠伍だ。

開幕ローテーション入りは逃したものの、2026年4月26日に一軍に昇格すると、5月10日のロッテ戦で5回を2失点の好投で初勝利をマーク。その後も先発の一角に定着し、ここまで7試合に登板して5勝0敗、防御率2.19という見事な成績を残しているのだ(6月25日終了時点)。

ちなみに5勝という数字はチーム2位で、パ・リーグの新人王資格のある選手のなかではトップである。

大阪桐蔭で見せていた片鱗――“完成度の高さ”はすでに高校時代から

そんな前田は滋賀県の出身で、小学校6年時には年末に行われている12球団ジュニアトーナメントのオリックスジュニアに選出されるなど、地元では早くから評判の選手だったという。高校進学時にも多くの強豪校から誘いがあった中、大阪桐蔭を選択。1年秋には早くも投手陣の一角に定着している。

初めてそのピッチングを見たのは1年秋に出場した近畿大会の対東洋大姫路戦だった。前田は4点をリードした7回から2番手として登板。3イニングを投げて被安打1、4奪三振で無失点の好投でチームの勝利に貢献した。

当時のノートにも、その非凡さがうかがえるメモが残っている。

「フォームの流れがスムーズで楽に腕が振れ、指先の感覚も素晴らしい。抜けるボール、引っかけるボールが少なく、テンポ良くコーナーいっぱいにボールを集める。スピードは130キロ台中盤が多いが(この日の最速は140キロ)、しっかり指にかかり、数字以上に手元で勢いを感じる。

(中略)

ロッテの小島和哉とイメージが近い。スライダーは120キロ程度でもう少しスピードが欲しい。チェンジアップのブレーキもばらつきがある。このあたりが改善されて、スピードが上がってくれば楽しみ」

全国を驚かせた明治神宮大会。“1年生離れ”した完成度

さらに驚かされたのが、この近畿大会から約1ヵ月後に行われた明治神宮大会だった。初戦の敦賀気比戦では4回からリリーフし、6イニングを投げて10奪三振、無失点でチームの逆転勝利に貢献すると、準決勝の九州国際大付戦、決勝の広陵戦でも好投。チームを優勝に導いて見せたのだ。

特に圧巻だった敦賀気比戦を記録したノートには以下のようなメモが残っている。

「1ヵ月前の近畿大会よりもストレート、変化球ともに明らかに良くなっている。チェンジアップは速いボールと遅いボールを投げ分け、どちらもブレーキ抜群。ストレートもコンスタントに140キロオーバー(最速は144キロ)。

ストレートとチェンジアップのコンビネーションで三振を量産し、テンポの良さも抜群。相手の打者が明らかに自分のスイングができていない。カーブ、スライダーも上手く投げ分け変幻自在。大人のピッチング。牽制とフォールディングの上手さもとても1年生とは思えない」

この大会の活躍で、前田の名前は一躍全国に鳴り響くこととなった。

翌年春に出場した選抜高校野球でも、2試合に先発して13回を投げて無失点、23奪三振という圧巻の投球でチームの優勝に大きく貢献。続く夏の甲子園では準々決勝で下関国際に敗れて春夏連覇は逃したものの、秋の明治神宮大会でも3試合に登板するフル回転の活躍で、チームを高校の部では史上初となる大会連覇に導いた。

順風満帆ではなかった道のり――。肘の故障と“外れ1位”という現実

これだけの活躍を見せたことで、早くから世代トップの投手として評判となった前田だが、その後は決して順風満帆だったわけではない。

3年春の選抜高校野球後には肘を痛めて実戦から遠ざかり、夏は大阪大会の決勝で履正社に敗れて甲子園出場を逃している。ドラフトでも1位指名だったが、最初の入札ではなく、いわゆる“外れ1位”でのプロ入りだった。

プロでも1年目から二軍で結果を残したものの、一軍初登板となった2024年10月1日のオリックス戦では3回を投げて6失点という結果に終わっている。

そんな前田が2026年、一気にブレイクできたのは、課題だったストレートの改善が大きい。

高校時代も145キロ以上をマークするボールは少なく、全体的に変化球で上手くかわす投球が目立っており、プロでも軽々とストレートを弾き返されるシーンが多かったのだ。ところが今年はアベレージでも145キロ前後を計測しており、三振の約半分もストレートで奪ったものである。体つきも明らかに大きくなっており、二軍で実戦を積みながらも、しっかりトレーニングを積んできた成果が出ていると言えそうだ。

チームは実績のある選手は多いものの、若手は伸び悩んでいる選手が多く、世代交代が課題となっている。そういう意味でも前田にかかる期待は大きいだけに、さらにレベルアップして新たなソフトバンクのエースへと成長してくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2026年8月号

人生を豊かにするLUXURY WATCH

ゲーテ8月号表紙(宮本浩次)

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2026年8月号

人生を豊かにするLUXURY WATCH

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ8月号』が2026年6月25日に発売となる。特集「人生を豊かにするLUXURY WATCH」では、さまざまなライフシーンに似合う時計を厳選! 表紙は宮本浩次。

最新号を購入する

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる