約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

“1曲1曲が勝負”の時代
今、音楽業界で最も大きなテーマになっているのは生成AI。誰でもとは言わないけど、アイディアさえあれば、ボタンを押すだけで音楽がつくれてしまう時代になった。
先日、エイベックスUSAの社長と話をした。米国のクリエイターたちは、どのように使っているかは別として、ほぼ全員が生成AIを使って作曲をしている。使うのは、もはや当たり前だそうだ。生成した曲を簡単に登録できて、世界中に配信されて、収益も自動的に回収してくれるプラットフォームもどんどん生まれているらしい。
僕はいつも極端だから「作曲も作詞も、なんならアーティスト自体も全部AIになるんじゃないか」という話をした。しかし、彼はそうでもないという。AIが出てきても、人はそうすぐには変わらないし、人がつくった音楽を好む人もいる。人とAIは共存していくのではないか、と言っていた。
僕もそう思うところはある。ただ僕は、僕たちにとって最悪の事態を考え、その準備をしていくのが仕事。でも本音では、人がつくる音楽には消えてほしくない。
音楽の世界がこういう状況になっている時に、最前線にいるエイベックスの社員たちは、AIをどう考えているのか知りたかった。最悪の場合では、人間がつくる音楽なんか不要になって、エイベックスも不要になって、現場にいる社員も不要になってしまう。彼らはそこをどう考えているのだろうか。
若手社員と食事会をした際、僕は、「アルバムってなくなるんじゃない?」という話をした。今までは、シングル曲を出して、それが何曲か溜まると、アーティストの個性を出した曲を追加録音してアルバムにまとめる。そして、このアルバムのコンセプトを活かした全国ツアーをする。アルバムがアーティストの表現活動の中心だったし、収益性が高いアルバムは音楽ビジネスの中心でもあった。僕は、そのアルバムがなくなるんじゃないかと心配している。
ところが、若い社員は「いや、アルバムはなくならないと思います」と言うんだよね。「あ、そう考えているんだ」と意外だった。もう何十年もこの世界で生きてきた僕の方がドラスティックな考え方をしていて、この世界に入ってまだ経験が深いとは言えない若い社員が保守的な考え方をしている。「なんで?」って、何回かこの話を繰り返したんだけど、やっぱり彼らは「なくなることはないと思います」と言う。
アルバムが中心という考え方は、僕たちが昔からやってきた手法。最初にコンセプトを固めておいて、それからシングルを3枚連続して出していく。ドン、ドン、ドンとヒットを連続させて、そこで新曲を追加してベストアルバムにして、それを引っ提げてツアーをやる。アルバムにはヒット曲が何曲も収録されているから、考えられないほど売れた。
他のレコード会社も似たようなことをしていたから、エイベックス独自の手法というわけではないけど、僕たちはずっと昔からアルバムを中心にしてきた。今、最前線にいる社員たちもアルバムを中心に考えている。昔からずっと変わってない。それでだいじょうぶなのかなと思う。
アルバムはなくなる、は間違えている?
今では、楽曲を知る場所はYouTubeなどになっている。アルバムを頭から最後まで通して聴く場所なんて、サブスクとかに限られる。この状況を考えれば、アルバムじゃなくて、1曲1曲が勝負になっていくのではないか。1曲出して売れなかったら、そのユニットはそこで終わり。そういう厳しい時代に入っていくんじゃないか。映画と同じ。◯◯という映画をつくってヒットしたら◯◯2、それもヒットしたら◯◯3、◯◯リターンとシリーズ化していくけど、ほとんどの映画はそこまでじゃないから2が出てこない。
アルバムにコンセプトが求められるのではなく、アーティスト自身にコンセプトが求められる。そのコンセプトに沿って、1曲1曲ビジュアルを変えて振り付けをつくっていく。それを実際にやっているのがXG。X-Pop、近未来、AIといった要素を組み合わせることで、日本だとか韓国だとかの枠を超えて、世界中にファンが広がっている。アーティストの新しいあり方をつくりだそうとしている。
もはやアルバムという器は消え失せて、プレイリストでいいじゃん? 僕はそんな風に思っていた。でも、最前線で戦っている若い社員たちは、アルバムという形式はなくなりません、と言う。会長のお話もわかりますけど、僕たちとしてはアーティストの表現の場として残していきたいです、と言う。
あれ? 僕の方が間違えている? いや、アルバムがなくなるというのは言い過ぎにしても、主流ではなくなるよな。でも、彼らの話を聞くと、僕の方が間違っているのか?とわからなくなってきた。
会食という限られた時間のなかでの議論だったので、彼らがどのレベルで考えて話をしているのかはわからない。だからもう一歩踏み込んで、深い話がしたかった。この会食は、彼らにとってだけでなく、僕にとっても貴重な話をする時間になっている。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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