約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

平成初期のエイベックスはすごかった
20代〜40代前半の若手社員を数人ずつ集めて、食事会をするということを最近続けている。エイベックスという会社は、ほんと自由。ある食事会では、ひとりはスーツを着ているけど、どことなく「昔は音楽バリバリにやってました」という空気。スーツに、茶髪の坊主頭で一部だけ残して髷みたいにしている社員もいれば、タンクトップにスーツを着ているホストっぽい社員もいた。服なんて自分の好きなものを着ればいいけど、まあ、自由でエイベックスらしいメンバーが集まった。
こういう食事会を持ってよかった。若手社員の考え方は、僕の想像とはだいぶ違っていることがわかった。
茶髪にスーツの社員は見た目22、23歳ぐらいで、若い。その彼が「この間、初めて上司にラウンジに連れていってもらいました! エイベックスに入ったら、いっぱい飲みに連れていってもらえると思っていたんですけど、今までまったくなかったんです」と言っていた。
確かに、平成初期の頃のエイベックスはめちゃくちゃだった。毎日、飲みに行っていた。会社の経費で、お客さんと一緒に上司から部下まで大騒ぎしていた。あの頃の空気感というのは、みんな頑張って仕事して、儲けて、どんどん遊べというもの。ところが時代が進むにつれて、そういうめちゃくちゃなことが全部ダメだということになって、全員が丸くつまんなくなって、会社の経費で飲みに行くなんてとんでもない、ついには部下を飲みに誘うのも控えましょう、という世の中の流れに沿うようになってしまった。
僕もこの10年か20年、業務と関係なく社員を連れて飲みに行くということはしていない。だって、確実に問題になってしまうから。初期の頃は、社員を連れて飲みに行ったら「自己紹介代わりに踊れ」なんていうことを平気でやっていた。遊ぶ場所で、上品にしていたって面白くない。面白くするためにやっていた。でも、今だったらそれがスマートフォンで録画されて、SNSに流出する。外から見たら、ひどい会社に見える。
特に女性社員と飲みに行く、食事に行くということはまったくしていない。僕は酔うとだらしがなくなるから、「飲めよ」と言ってしまったり、肩をポンポンたたくとか平気でやってしまう。悪気はまったくないけど、それがハラスメントにあたることはわかる。だから、行かない。かつては女性社員のほうから「今度、ご飯に連れていってください」と言われることもあったけど、今はそういうこともなくなった。僕だけでなく、社員みんながそうなっている。
以前は、年末に納会をし、朝礼もあり、誕生日会だって毎月やっていた。その月に誕生日の人を集め、ヴェルファーレの一部を借りて祝うという派手さだった。部署とは異なる枠組みで社員が集まれば、いろいろな人と知り合いになれる。10月の誕生日会には、1日生まれの僕も出席していたから、入社したばかりの新人社員だって僕と話をする機会が持てた。社内イベントは貴重なコミュニケーションの場だったし、そこからエイベックスの元気が生まれていた。
コミュニケーションの場をどこで取り戻す?
最近のZ世代はお酒を飲まないし、会社の行事も自分の時間を削られるから嫌がるとよくいわれる。本音を言えば、僕も会社の行事は好きじゃない。だって、立場上、スピーチをしなければならないから。「本日はお日柄もよく……」なんて話はできない。起承転結もない、中身もないスピーチを延々とする人がいるけど、僕は心にもないことは1ミリも言えない。
行事が始まると、自分のスピーチの時間が来るまでずっと憂鬱。聞いている人の心に伝わる内容にして、笑いも誘って楽しませたいという思いがあるから、めちゃめちゃ考える。ずっと考え続けているから、ものすごく疲れる。だから、自分の役目が終わったら帰りたくなる。
社員を一堂に集めるイベントが好きだという経営者もいるかもしれないけど、僕は反対。どちらかというと嫌いで、できれば出席したくない。それでも、いやいやながらも出席するのは、それがエイベックスにとってプラスになることだと思うから。エイベックスが今の半分ぐらいの規模の頃までは、そういう集まりを盛んにやっていた。それが、世の中がそういうことを問題視するようになり、さらにお金もかかるという理由から、ひとつひとつ社内の集まりが消えていった。
それが、「飲みに連れていってほしい」と言う若手社員がいることに驚いた。どんな文化でも、“いい部分”と“悪い部分”は一緒になっているもの。その悪い部分だけに注目して「ダメだ」と言ってどんどん消していったら、いい部分も一緒に消えちゃった。そういうことなのだろう。
そして、そのいい部分であるコミュニケーションの場をどこで取り戻すのかと言ったら、実際、ないよね。代替できる手段はないと思う。業務に関係あることだけを連絡し合っているだけで、コミュニケーションを取れるものなのか。そうは思えない。エイベックスのように新しいエンタテインメントをつくり出していかなければならない企業にとっては、まったく足りない。でも「エイベックスは普通の会社とは違う」という言い訳は、世間では通用しない。
社内でも問題意識は持っているようだ。先日も、納涼会をやるかやらないかで議論をしていた。こういうことって、スクラップアンドビルドではないけど、つくって壊してを繰り返していくものなのかもしれない。
僕は、この件に関しては意見を述べず、みんなに任せていた。納涼会という形がいいのかどうかは別として、コミュニケーションの場は必要。スピーチをしなくていいんだったら、僕も出席する。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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