怪我のために無念の代表離脱、同時に自身の代表引退も表明した遠藤航。著書『STEP-夢を叶える33のブースター-』(SYNCHRONOUS BOOKS)より一部抜粋。

「ベスト8」か「ベスト4」か「優勝」か
「日本代表でワールドカップ優勝」という夢をはっきりと口にしたのは2023年6月の代表戦(エルサルバドルとペルーの2試合が組まれていた)に向けた合宿初日だった。
練習前、森保さんに「今日、ミーティングでキャプテンをお願いしたことを伝えるからね」と言われ、みんなに向けて話すべきことを今一度、自問自答した。
カタール・ワールドカップから半年間、ことあるごとに「2026年の北中米ワールドカップに向けて、日本代表はどこを目指していくのか。そのために僕たち選手はどういう技量やメンタリティが必要か」ということを考え続けてきた。車で移動しているとき、寝る前のひとり時間……いろいろな可能性を想像した。
考えていく中で整理できたのは、その判断材料だ。
ひとつは若い選手たちの思い。カタール・ワールドカップ後の、特に若い選手たちの言動には心を動かされていた。彼らの多くは、ワールドカップで優勝するという大きなモチベーションを持っている。日本代表をよくチェックしてくれている人であれば、例えばリツ(堂安律)がカタール大会から「優勝」を公言していたことを知っていると思う。そういう彼らの気持ちは尊重したかった。
もうひとつは日本サッカー協会(JFA)が現在進行形ですすめている「2050年までにサッカーファミリーを1000万人にし、FIFAワールドカップで優勝する」という中長期目標の存在。
実は僕は、これをカタール・ワールドカップが終わるまで知らなかった。よくよく調べてみると、2005年1月1日に発表されたこの目標には「JFAの約束2050」として「FIFAワールドカップを日本で開催し、日本代表チームがその大会で優勝チームとなる」と書かれていた。
僕たちが目指すのは2026年の北中米ワールドカップである。確かに日本サッカー全体のことを考えれば2050年までのプロセスは大事になる。でも、「今」戦っているメンバーは、ほぼ間違いなく2050年にプレーをしていない。
「俺たちは、優勝を期待されていない? なら、やってやろう」……そういう空気感は僕だけではなく「今」の多くの選手たちに感じていた。であればその思いを大事にするべきじゃないか。
一方で「現実味・実感の有無」も判断基準としてあった。
冷静に日本代表のワールドカップでの戦績を見れば、優勝はおろかベスト16を突破したことすらない。それなのにいきなり「ワールドカップ優勝」を口にすれば「現実的」じゃないし、「実感が湧かない」可能性があった。
特に日本代表というのは同じ目線で戦うのが難しいチーム形態だ。メンバーは固定ではなく、毎回選ばれなければならない。僕自身も同じ立場だ。とはいえ、中心的な選手は自然と生まれてきて、その選手は目標に対してコミットしやすい。
けれど選ばれるか選ばれないかの当落線上にいる選手や、初めて選出されるような選手はまず自分のパフォーマンスをしっかりと発揮し、アピールしたいと考えがちだ。それは選手として正しいモチベーションのはずだ。
そんな選手に「優勝を目指す」と言っても心からコミットできないだろうことは理解できる。同じようなことは、ともに戦ってくれる監督やコーチはもちろんサッカー関係者、そして応援してくれるサポーターでグラデーションがあるように思えた。
その視点で考えると「目標はベスト8」と言うことで、誰もが現実味・実感を持てるだろうと思った。そもそもカタール・ワールドカップで掲げられていた目標であり、僕たちはそれを実現できなかった。次のステップとしては妥当であり、異論があるはずがなかった。
とはいえ、これまで8度出場したワールドカップで一度も到達できなかった「ベスト8」は悲願のように語られ、「ベスト16 の壁」と言われるほど意識されている。実は、意識しすぎているがゆえに壁を突破できていないのではないか。そういう感覚もあった。であれば「目標はベスト4」の線もありか。いや、それだったらやっぱり「優勝」と言ったほうがわかりやすい……。
ぐるぐると「答えのない問い」をし続けた。僕のキャラクターを知る人は意外に思うかもしれないけど、考えていると目が冴えて寝つけなくなることもあった。
「ベスト8」か「ベスト4」か「優勝」か。
結局、全員が本気で「目線」を揃えなければ意味がないのである。この「全員」がいかに難しいか。最適解を見つけるしかなかった。
あるとき、4人の父親でもある僕は、「今の子どもたち」の「目線」から見た日本代表は「ドイツやスペインよりも強い」ということに気が付いた。カタール・ワールドカップでこの2カ国に勝ったことを目の当たりにしている世代だ。僕の子どもの頃、例えば(先に書いたように)カーンの存在に象徴されるドイツ代表は日本より強い国という「目線」でしか捉えることができなかった。
けれど、日本代表の地道なステップによって、未来のサッカー界を担う存在にとって日本代表のイメージは、昔のそれとは大きく変化しているのである。
子どもたちが優勝候補といっても過言ではない強豪国より強いと思っているのに、それを目指す選手たちの目標が「ベスト8」や「ベスト4」だとしたら……「目線が揃わない」。
「最適解は、ワールドカップ優勝だ」
6月シリーズ合流前に、そう心に決めていた。

