ドイツで伝説と呼ばれ、2年連続「デュエル勝利数1位」、遅いタイミングでの海外移籍など「不可能」だと思われたことをことごとく覆してきた、サッカー日本代表・遠藤航。なぜ彼はこれまで不可能だと思ったことを可能にできたのか。正解を作らず【最適解】を探してきたその哲学とは。2022年11月に上梓した『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ 』より一部抜粋してお届けする。【最適解】最も適した答え。現状から最適と考えられる解答(『大辞林』より)。第2回。#1
「こうあるべき」という正解にこだわりすぎると、選択肢が減り、視野が狭まる
サッカーに限らず、チーム作りはとても難しいものだと思います。
そこに多くの人がいるほど、その難易度は上がっていきます。僕は所属するシュツットガルトでキャプテンを務めていますが、年齢や国籍が違う選手や監督、スタッフと同じ方向を向いていく大変さを身をもって痛感しています。
結果が出ないと「いまのままでいいのか?」と考える時間は増えます。
その中で感じてきたのは、「こうあるべき」といった正解にこだわりすぎると、どんどん選択肢が減り、視野が狭まってしまうということです。
例えば、チームの調子が上がらないとき「キャプテンがもっと引っ張らなければいけない」「調子の良くない選手をフォローしなければいけない」と言った考え方。ドイツで言えば、気持ちの強いファイターが好まれることもあり、そうした「キャプテン像」が確立されています。まさにキャプテンの在り方としての「正解」的なものです。
けれど、本当にそれだけがチームをいい方向に導いていくやり方なのだろうか。
僕はあまりピッチ外で感情を表に出すタイプではありません。
慣れないこと、やったことのない選択を「正解」のためにすべきなのだろうか。
こうやって「正解的なもの」を疑ってみることは、僕に大きな成長をもたらしてくれました。
同じようにチームというものの在り方を疑って考えてみたとき、この日本代表には、日本人ならではの強みがあると思い至りました。
ヨーロッパでプレーする選手が増えた。そこで多様な戦い方を目にし、サッカー観を磨く選手たち。
それとは違った視点で、日本からヨーロッパを中心とした「世界」を見て、ピッチに落とし込もうとする監督、指導者。
「世界(ヨーロッパサッカー)との差」とよく指摘され、「短所」のように考えられていた「距離」は、裏を返せば、それを真剣に考え、分析し、向き合えるという日本サッカーの「長所」にもなるのではないでしょうか。
例えばドイツサッカーが「世界との差」と向き合うか、と言えば、もっと違った視点、自分たちの強みを生かす戦術、データ、育成といったところに重きを置くのでは──。
監督が決め、選手が従う。
そういう「正解」みたいなものを、森保監督は疑い、「世界との差がある」からこそ、選手の考え方を引き出してチームを高める。そこに至るまでの背景はいろいろとあると思いますが、結果としてこの「選手同士の話し合い」とそれを「監督と共有する」チーム力は、「世界」にはない、強みになる可能性があると思います。
結局、チーム作りにも「正解はない」からスタートすることだった。
4年間、日本代表の中心選手としてプレーをさせてもらって、そんな気付きを得ています。
遠藤航/Wataru Endo
1993年2月9日神奈川県生まれ。中学3年時に湘南ベルマーレユースからオファーを受け、神奈川県立金井高校進学と同時に湘南ベルマーレユースに入団。2010年、湘南ベルマーレに2種登録選手として登録され、Jリーグデビューを果たすと2011年よりトップチームに昇格。主力選手として活躍し、19歳でキャプテンも務める。2015年に浦和レッズに完全移籍。2017年にはAFCチャンピオンズリーグで優勝し、初の国際タイトルを獲得した。また、2015年には日本代表に初選出され、2018年のロシアワールドカップでメンバー入り。同年ベルギーのシント=トロイデンVVへ完全移籍。2019年8月にVfBシュツットガルトへ期限付き移籍。主軸として1部昇格に貢献、2020年4月に完全移籍となる。20-21、21-22シーズンと連続でブンデスリーガ1位のデュエル勝利数を記録。21-22シーズンからはキャプテンを務めるなどチームの中心として活躍。日本代表としても不動のボランチとしてカタールワールドカップアジア最終予選を戦った。日本代表は44試合に出場、2得点。ブンデス1部は75試合8得点(2022年10月8日現在)。
▶︎▶︎毎週コンテンツを配信する「月刊・遠藤航」はこちら
【関連記事】