放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「46歳のリーダー職です。桝本さんは新刊の中で、『かつては人気講師ではなかった』と語っていましたが、どのような自己変革で若い人たちの心を掴んでいったのでしょうか? 具体例があれば教えてください」という相談をいただきました。
まずは拙著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』を手に取って下さりありがとうございます。
本の中でふれたように、一昔前の僕は、けして胸を張れる講師ではありませんでした。
やる気を見せない生徒、同じミスを繰り返す生徒、チームの輪を乱す生徒らに、イライラしたり感情的になったりして“うまく若手を伸ばせないリーダー”だったのです。
そんなダメリーダーから、「人気講師」と呼んでいただけるようになったのは、大きく2つのマインドセットがあったと感じています。
そこで今回は、元ダメリーダーの僕だからこそ知っている『若手が伸びるリーダーと、伸びないリーダーの違い』を、ゆっくりシェアしていきたいと思います。
リーダーは、「教科書」でなく「参考書」をつくる
約1400人の若手を指導するポジション(吉本NSC講師)を任された時分。精一杯、指導しているつもりでしたが、若手の反応はイマイチで、さほど成長を感じることもできませんでした。
その原因は、もちろん若手でなく僕のほう。自分もNSCの卒業生であり芸人経験もあったことから“「オレが教科書なんだ」と勘違いしていたこと”にあったのです。
昭和・平成前期までの有能なリーダーは、その人が目で見て足で稼いできた「経験」や「情報」が、そっくり“ありがたい教科書”になっていました。
しかし、僕が受け持つことになった、いわゆるZ世代は、ネットで無限の情報を手に入れ、そこから自分にとって有益だと感じるポイントをコピペして“自分なりの教科書をつくっている世代”だったのです。
例えば、NSC生なら、YouTubeやサブスクで、秀逸なネタ動画や、一部芸人が開示しているネタの作りかた動画を観て“マイ教科書”をこしらえています。
そんな彼らに、「オレの教科書が正しいぞ」と振りかざしても“ありがた迷惑な教科書”になるだけなんですね。
現代のリーダーに必要なマインドは、自分の「教科書」を押しつけるだけでなく、“各々が持っているマイ教科書と照らし合わすことができる、より解像度を上げることができる、「参考書」をつくる感覚を持つこと”です。
自分の育成方針を詰め込んだ教科書を、とうとうと語って聞かせるだけでなく、まずは若手に、マイ教科書と心を開いてもらい、それに見合った自身の豊富な知見を、参考書のように示していく。
これが、現在の僕につながった、大きな自己変革の一つ目です。
リーダーは、若手の「たくらみ」を「たのしむ」
若手にマイ教科書を開いてもらうためには、先述のように「心も開いてもらう」ことが必要です。
そこで、僕の授業では「自由に授業の妨害をしてもOK」というルールをつくりました。
この妨害とは、生徒たちの間で「たくらみ」と呼ばれており、内容はすべて僕には内緒。事前にNSC側に企画(たくらみ)を伝えておけば、誰もが好きな笑いを披露できるのです。
例えば、つい先日の授業では、僕が教室に入ると、突然、プラカードを持った芸人コンビに先導され、写真のように、高校球児みたいに教室を何周も行進させられました。

ようやく解放されたと思いきや、今度は「クリスマスプレゼントです!」と、写真のような「謎の2つの赤い玉」を渡されました。

「何これ?」と聞くと、「ミャクミャクの一部です! ほしかったでしょ?」ですって……。毎回こんな感じなんです。
この若手発の「たくらみ」に、自分も巻き込まれて「たのしむ」という思考になれたのが、現在につながる2つ目の変革。
生徒たちの「自発」をうながす、そこから生まれる「知性」を信じてみる態度によって、おのずと彼らのマイ教科書が開き、個性や特性を掴みやすくなっていったのです。
この「たくらみ」は、どんな職場でも応用可能です。ゴミ箱の色、給湯室のコーヒーの銘柄、中庭の花壇に植える花の種類など、些細なものでもよいのです。若手がアイデアを自発できるムードづくりと、それを共に「たのしむ」思考を育ててみてください。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中!
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