放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「ハラスメントを気にして、若手への注意の仕方に迷っています。けっきょく面倒くさいのでアドバイスしなくなってしまうのですが、進歩しないチームへのジレンマも大きくなるのです……」という相談をいただきました。
なるほど。若手を注意しなければハラスメントは避けられるけれど、その分チームは成長しなくなり、葛藤が生まれてしまう。
これは、多くのリーダーが抱えている悩みではないでしょうか?
僕のことを「優しい講師」だと思われている方もいるでしょうが、実は、がっつり注意するときはする「厳しい講師」です。
ではなぜ、そんなヤツが「人気講師」などと持ち上げていただいているのでしょう?
そこで今回は、ハラスメントが気になって部下を注意できない人たちへ、僕が15年間実践してきた「若手を注意するときのメソッド」をシェアしていきたいと思います。
あなたの職場は「地雷ゲーム」になっていませんか?
まず、なぜハラスメントが起こってしまうのでしょう?
それは若手社員が、想像していなかった「過剰な注意を受けた」と感じるからです。
企業研修講師もやってきた僕の知見だと、ハラスメントが散発する職場は、「地雷ゲーム」になっているケースが多くあります。
地雷ゲームとは、マス目にランダムに仕込まれた爆弾(ドボン)を踏まぬよう、正しい選択を繰り返してゴールを目指すというもの。
つまり、上司が叱るポイント(地雷)がシークレット設定になっているので“若手社員らは、いつ・どこで・どんな注意を受けるのか、分かっていない状態でプレイ(仕事)をしている”といった職場です。
このような空間では、若手は予期せぬ注意を受けていくので、そのつど胸に受け止めていかねばならず、些細なことであったとしても、人によっては「衝撃」が走り、ハラスメントというホイッスルを吹いてしまうのですね。
では、私たち年長者はどのようにしていくべきなのでしょう? そのカギは「シークレット設定を解除すること」なんです。
「地雷ゲーム」を手放し、「禁止ゲーム」をスタートしてみる
いま僕は、血気盛んな約1000人の芸人の卵を指導していますが、全員が「桝本が厳しく叱るポイント」を知っています。
そのポイントは、たった1つ、かつシンプル。「桝本と話すときは、目を見て快活にしゃべる」です。
そして、なぜ厳しく注意するのかを、以下のように最初の授業で言語化しています。
- これから数多くのオーディション(面接)を受けるが、事前に事務所からプロフィールは送ってあるので、経歴(業績)は知られている。
- あとは、対面したときの「印象」が合否を分けるので、しっかり目を見て話すクセをつけよう。
- ちなみに就職面接では、入室して8秒間の印象で、採用・不採用を判断している一流企業もある。
といった具合に“「なぜ厳しく注意するのか」「なぜそれが重要なのか」「それをやると、どんな得があるのか」を、まだ若手がミスをしていないときに伝えておく”のです。
いわばこれは、スポーツ競技のルールのように、あらかじめ禁止行為を周知させたうえでプレイしてもらう「禁止ゲーム」のシステム。
上司は、審判のように公平にプレイを見て、禁止行為をした人物のみにホイッスルを吹けばいいのです。
多くの職場では、最初にマニュアルを詰め込みますが、最初に「これをやったときは厳しくいくよ」という「注意上の握手」をしておくと、職場は健全になるというのが僕の経験則です。
1つのルールで、チームの成長につながる
難しく考える必要はありません。大切なのは2つだけです。
1つは、僕のように「まだ注意が必要ではないときにルールを伝える」こと。ランチで同席したとき、タスクを達成したあとなど、関係が良好なときにやんわり伝えるようにしましょう。
2つ目は、「注意のルールは1つから始める」こと。僕は「目を見て快活に話す」の1つだけにしていますが、それでも注意しなければならない若手は必ず出てきます。
しかし、最初にルールの握手をしておくと、厳しく注意するのはフェアネスですし、なあなあな空気にならず緊張感も生まれます。
そして、若手はカンもいいので「目を見て快活にしゃべる」を基点にして、「あいさつも元気よくしてみよう」「どんどん質問してみよう」などのプラスアルファを、自発的にマイルール化していきます。
こうして、1つのルールがコアになりチーム全体が成長や進歩をしていった成功体験が僕にはあります。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。