放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「自分探しに疲れてしまいました。今の仕事は本当に自分に合っているのか? 自分らしいのか? いっそ清算して海外にでも行こうかと考えるのですが、そのあとの生活も心配で……。こんな私にアドバイスをお願いします」という相談をいただきました。
SNSを開けば、自分らしく生きている姿をアピールしている人だらけなので、つい自分とくらべてしまい、もっと別の生きかたがあるんじゃないか? と考えてしまいがちですよね。
実は吉本NSCには、もっと別の生きかたがあるのでは? と考えてやって来た元社会人がたくさんいます。
しかし、そんな彼らでさえ、相談者さんのように、本当に自分に合っているのか? 自分らしいのか? と、再び心の迷路に入っていくケースが多くあります。
そこで今回は、そんな生徒たちに伝えている「自分探しに疲れたときの思考のコツ」をシェアしていきたいと思います。
「自分探し」に疲れたら「自分掘り」も一手
まず、なぜ人は「自分探しに疲れる」のでしょう?
1万人と向き合ってきた僕の知見だと、「青い鳥」を探していろんな国へと出かけていく、童話のチルチルとミチル兄妹のように“きっと答えは、ずっと遠くにあるはず”という思考で「心のつま先」を外へ外へと向けてゆくからです。
どこに住んでいるのかも分からないSNS上のキラキラした人の生活や、異国の美しい風景などが「本来の自分の居場所」に見えてくることは誰にでもありますよね?
しかし、それを「自分の正解や真実」だと捉えてしまうと、探し歩き続ける生きかたになってしまい、なかなか成果物を得られなかったとき、自分に幻滅し疲れてしまうのです。
教え子の空気階段は、爆笑問題さんが好きで芸人になり、いろんなスタイルの笑いを探し求めましたが、やがて心のつま先を外でなく内側、つまり自分に向け、二人にしかできないコントを追求。「他の芸人が演じられるネタは捨てる」といった思考でキングオブコント王者に輝きました。
またM-1常連のオズワルドは、かつては正解を外に求め、Wツッコミの漫才をしていたこともありましたが、やがて無駄な動きやワードを排除していく自分らしい漫才を確立。それは「新・東京スタイルの漫才」と呼ばれ始めました。
彼らに共通しているのは、最初は自分と他人をくらべて「きっと答えは、ずっと遠くにあるはずだ」と思って突き動いていたけど、そのままだと疲れ果ててしまうので、一度その場で足を止めてみたこと。
そして、これまでの自分の歩みは正しかったと肯定しつつ、「じゃあ、今の自分ならば、何ができて、何ができないのか?」と“自身の内側を採掘していく態度”があったんですね。
自分探しに疲れている人は、窓から外界を眺めてばかりいるその体を反転させ、家の中にある「自分が集めてきたもの」「好きなもの」に目を向けてみることも一手です。
そこには横になれる布団もあるはずなので、ゆっくり眺めて自分を掘ってみてください。
あなたの内側にもある名無しの「個性」や「カラー」
自分を掘ってみる行動は、「当たり前すぎてやっていなかったことをやってみる」ということでもあります。
例えば、照れくさいでしょうが、子育てや仕事を全うしてきた父母に「同じ歳のころに何を考えて生きていたか?」や「働き甲斐は何だったか?」と聞いてみることもその一つです。
父親が定年退職をしたとき、僕はちょうど仕事の方向性について迷っていたので、「オヤジは、どんな仕事が得意分野だったの?」と聞いてみました。
すると父は、「いろんな仕事をしたけど、人に教えるのが一番得意だったよ。だからお前は吉本の学校に向いていると思うよ」と言ったのです。
その頃はまだ新米講師で、父の言葉にピンと来ませんでしたが、今になってみると「やっぱり似ているんだな」「いい部分を受け継いでいるな」と感じます。
「青い鳥」を探し続けたチルチルとミチルは、けっきょく見つけることができませんでしたが、自宅に戻ると飼っていた白い鳥が、なぜか青い鳥に変わっていました。
自分のカラー(個性)も、まだ見つけてもらえていなかったり、名前がついていなかったりするだけで、実は自分の内側で、ずっと探されるのを待っていることもあります。
それを見つけるツールは、ごく身近にいる家族や友人だったりすることもあるということなんですね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。