放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「職場の若手社員の話題についていけません。彼らが面白がっているモノの面白さが分からないのです。無理をしてでも学ぶ必要があるのでしょうか?」という相談をいただきました。
人気YouTuber、TikTokでバズっている動画、ボカロ、恋リア、K-POPアイドル……、若者の興味の矛先は目まぐるしく変わるので「理解できない」「どうすれば面白いと思えるのか?」などと考えているリーダー世代は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、毎年1000人以上のトレンドに敏感な若手芸人と向き合っている僕が、「若者が面白がっているモノの面白さが分からない人の不安」を、ゆっくりほぐしていきたいと思います。
「面白さ」より「面白い理由」に目を向けていく
まず、面白さが分からないのは当然なので安心してください。
子供のころ夢中になった砂場遊びの熱が冷めていったように、大金に思えた100円が小銭になっていったように“加齢に応じた「趣向」と「価値観」の変容”は誰もが通る道。それを「成長」や「成熟」と呼ぶからです。
若者のトレンドについていけない自分を「時代遅れじゃないか?」「おじさん化(おばさん化)しているんじゃないか?」と考え、焦ってしまうことは僕にもあります。
しかし、やたら若づくりをしたファッションで街を歩くと白い目で見られてしまうように、無理に若者のトレンドについていこうとしたり、知ったかぶりをしたりしても醜悪なパロディになるだけ。
なので僕は、「若者が面白がっているモノを同じ目線で面白がることは困難」だということ、そして「その面白さを否定してはいけない」を前提にして授業を運営しています。
さらに、若い人材と向き合う上でもっとも大切にしていることがあります。
それは“「面白さが分からない」はいいけど、なぜ流行っているのか? 支持されているのか? 「面白い理由」は分かる人であろう”という姿勢です。
エンタメ界もそうですが、ビジネスの基本はいつも新たな購買層になっていく「若い世代をいかに取り込んでいくか」にあります。
彼らが手を伸ばしているトレンドは、次なる新商品や新サービスを生み出すヒントの宝庫なので、その「根拠」と「背景」を理解しようとする姿勢がリーダーには必要だと考えているからです。
ちなみに僕は、ABEMAなどで若い人たちに支持される番組を多く作ってきましたが、ヒットコンテンツの制作過程の裏には、必ず「何を面白いと感じるか?」「ニーズは何か?」「つまらないポイントはどこか?」など、若い世代を「先生」にしたヒアリング会や勉強会があります。
私たちは「若者の面白い」を否定せず、無理に追随せず、お手本や指南役に配置して「学んでいく態度」を持つことも大切なのですね。
理解のコツは「若者ごし」に「若者を見る」こと
続いて、職場にいながら「若者の面白い」への理解を深めていくコツをシェアしていきましょう。
「若い人から学んでいこう」という意識が芽生えても、歳の離れた部下に「教えて」と言うのは腰が引けるものですよね?
僕も吉本NSCの新任講師になったころは「先生が生徒から教わったり、お願いごとをしたりするのは情けない」と思っていました。
そこで編み出したのが「若者ごしに若者を見る」という手法でした。

当初は、図のように教室の後ろに生徒を配置して、ネタを見せる生徒と近距離で対峙して漫才やコントを見ていたのですが、35歳を過ぎたあたりから教室の真ん中に生徒を配置して、彼らの背中越しにネタを見るようにしたのです。
すると、自分には分からないフレーズや仕草で“生徒たちの肩が揺れる=面白い箇所”が分かるので、彼らの笑いのツボを理解し、どんどんアップデートできるようになっていったのです。
これは会社内でも有用です。普段は気に留めていない若手の雑談を、背中越しに観察してみるのは明日からもできますし、会議で若手を後方に座らせる、デスクを端っこにしがちといった慣習も、思い切って変えられるのではないでしょうか?
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。