放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
「じ、じ、自分は、やたらカンチョーしちゃうんです!」
「えっと、緊張じゃないかな?」
「あっ、すいません、き、きん、きんち、カンチョーです」
「今、ほぼ言えてたよね?」
これはNSC授業での実際のやりとり。ボケのようで本人は大マジメ。芸人を目指す若者とはいえ、こういった「緊張」にまつわる相談・悩みはとても多いです。
みなさんも、会議や商談で赤面したり、プレゼンで足が震えたり、緊張で多弁になり余計なことを言ってしまったりしていないでしょうか?
そこで今回は、僕が約1万人の生徒に伝えてきた「緊張とうまく付き合う方法と思考」をシェアしていきます。
なぜ緊張と「うまく付き合う」のか?
まず、緊張は「雨」と同じです。たとえ「雨なんか降らなくてもいい!」と思っていても、空が気まぐれに私たちを濡らすように、何歳になろうがベテラン芸人になろうが、生きてりゃ緊張するし避けて通れません。
僕も幼少期から上がり症で、ここぞの場面で緊張する自分を、弱い、度胸がない、情けないと考えてきましたが、数百人の前で授業をする講師になっても、生放送番組に出演する立場になっても、ずっと緊張はするんです。
そう、「緊張すること」は、異常でなく通常、欠点でなく人なみだったのです。
なので私たちは、雨が降ると「傘を差す」「持っていなければ走る」といった対処をしているように、緊張との“うまいお付き合い”を探るべきですし、雨空を仰いでキレている人がいないように、緊張する自分を責めず、受け容れていく思考が必要なんですね。
緊張の「メカニズムを知る」は、天気予報くらい役立つ
雨への対応は、「事前に天気予報を見る」と助かるように、緊張も「事前にメカニズムを知っておく」と有益です。
例えば、緊張すると「鼓動が早く」なったり「赤面」したりしますが、中には心臓がバクバクしている自分、顔が赤い自分に気づいて、ますます緊張する人も多いのではないでしょうか?
実は、人体は「ここぞの場面」でアドレナリンを出す仕組みになっており、その分泌によって鼓動が早くなっているだけ。
いわば私たちの体が、「おっ、勝負どきだな! いいパフォーマンスができるように、アドレナリンという名のサポーターを送り込んでやるよ!」と援助するので心拍数が高まる。そう、「緊張→バクバク」ではなく、「活動をサポート→バクバク」なんですね。
赤面もしかり。顔を赤らめることは恥ずかしいことのように思えますが、これもあなたの体が優秀な証拠。
ここぞの場面になると、心臓はたくさんの血液を送るので、脳の湿度が高くなり頭がボ~ッとしてしまいます。そこで顔の血管を広げ、熱をためて汗をかきやすいようにして、脳へ向かう血液を冷やしているんです。
言わば、「さあ、大一番だけど平常心でいこう! クールにやるために頭もクールにしておくぜ! 悪いけど顔はホットでよろしく!」といった交換条件なんですね。
こういったメカニズムをインプットしておくだけで、緊張する場面での心持ちやアウトプットの質が変わってきます。
緊張をほぐすには○○の緊張をほぐす
いくつになっても緊張は避けて通れませんが、事前や日ごろの振る舞いによって、緊張の度合いを下げることはできます。
例えば、くりぃむしちゅーの上田晋也さんは、MCを務める番組で金メダリストと共演するとき、本番前やCM中に積極的に話しかけ、テレビに不慣れな相手の緊張をほぐしています。僕はいつも授業の冒頭で「好きな姿勢で聞いて。なんなら寝転んでもいいよ」と伝えています。
これは“相手の緊張をほぐして、自分の自由度を上げるテクニック”です。
ベストなパフォーマンスをするには、できるだけリラックスすることが必要ですが、相手側が身構えていると、こちらもリラックスできません。
なので一流芸人さんは、まず相手をリラックスさせることで、自分の自由度を上げ、パフォーマンスを発揮しやすくしているのです。
「有能に見られたい」という思いから、同僚や後輩に緊張感を与える人間になっていませんか?
周囲を緊張させる人は、自ら緊張する場面を増やしている人とも言えるのでお互い気をつけていきたいですよね。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。