英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者のお話、第318回。

K-POPアイドルの話をしたら聞かれた“Who’s your bias? ”
先日、友人に連れられてはじめてK-POPアイドルのコンサートに行きました。
そもそもアイドルのコンサートにはほとんど行ったことがなかったため、渡されたペンライトの使い方もわからず、最初はなんだか「ファンでもないのに1席とっちゃって申し訳ないな。なるべく他のファンの邪魔にならないようにしよう」と、肩をすぼめて小さくなって見ていました。
……約3時間の公演の終盤、私は大きく手を振り、メンバーの名前を絶叫していました。さっきまで顔と名前すら一致していなかったのに、歌って踊って、一生懸命日本語で自己紹介する彼らの姿に、すっかり魅了されてしまったのです。
「て、ことがあってさ、今ではすっかりファンだよ。ファンクラブ入ろうか迷っている」
そう、日本語ペラペラの日本在住アメリカ人に話すと、こう言われました。
Who’s your bias?
直訳すると「あなたのバイアスは誰?」となります。
「バイアス」は、カタカナ英語でもよく聞かれるあの「偏見」とか「先入観」を意味する「バイアス」です。
“Who’s your bias? ”意味がわかるようでわかりません。
聞いてみたらこういうことでした。
Who’s your bias?=あなたの推しは誰?
つまり「偏愛しているのは誰?」ということなのでしょう。「好きすぎてバイアスがかかっちゃっている」ことを認め、その愛を表現するフレーズみたいです。
しかも面白いことに、この表現は英語でありながらK-POPアイドルにしか使われないのだそう。
つまり“Who’s your bias in BLACKPINK?” とは言うけれど“Who’s your bias in Backstreet Boys? ”とは言わないし、バックストリート・ボーイズのファンにそう尋ねても意味が通じないんだそうです。
これはもともと、K-POPファンの韓国の方達がSNSなどで“RM is my bias in BTS(BTSの中で私の推しはRM)”という感じで投稿していたからなんだそうです。
それが、今ではK-POPを愛する世界中の人が使う英語になっているとのこと。
英語って世界共通語ですから、こうして英語圏以外の地域からも新たなフレーズが生まれることがあるということに、なんだか「言語っておもしろいなぁ」と感動すらしてしまいました。
私が見に行ったアイドルグループは5人組。ライブでひときわ私の目に輝いて見えたメンバーをMy biasとして、そのアメリカ人に紹介しておきました。そもそもそのアメリカ人もbiasの使い方を知っている時点で十分なK-POPファンです。
「二番目の推し」を英語で言うと…
「ちなみに、“bias wrecker”って言葉もあるよ」
とも教えてくれました。「バイアスレッカー」。レッカー車の「レッカー」ですからつまり、「バイアスを移動させる人」=「推し変をしかけてくる人」ということで、まぁいわば「二番目の推し」でしょうか。
“RM is my bias, but Jin is my bias wrecker.”
再度BTSを例えに出すと「RMが推しだけど、JINもヤバいよね」となります。
推し変を考えるくらい魅力的、ということです。
これまであまり「推し」という存在がいなかった私にとって、このアイドルとの出会いで新たな扉が開いてしまう予感です。怖いような、楽しいような、そんな気分です。