2023年に紹介した、ゲーテ読者に薦めたいとっておきの5冊をピックアップ! ※2023年4月〜12月掲載記事を再編。
1.『戦争とデザイン』|第一次世界大戦、ナチス、ウクライナ侵攻……デザインが狂わせる世界の均衡
本書は戦争におけるデザインを通じて、通常ポジティブに語られることが多いデザインの"負の側面"を提示する。近代戦争は国家間の情報戦争だとも言われるが、その情報を効率的かつ効果的に社会に伝播する手法のひとつが、デザインだ。
例えば、1917年のロシア革命。革命を主導したレーニン率いる左派・ボルシェヴィキは赤旗を掲揚(けいよう)し、反革命派との戦いを繰り広げる一方で、当時のロシア農民の識字率は極めて低かったこともあり、その事態を把握していない人々も多かったという。新しくできたボルシェヴィキ政府は民衆に対して革命の正当性を主張するプロパガンダを、テキストに頼らないビジュアルの形で示す必要があった。
2.『音楽と生命』|坂本龍一と福岡伸一による思考の軌跡
本書は、音楽家・坂本龍一氏と生物学者・福岡伸一氏の対話の記録だ。音楽と生物。異なる分野の大家であるふたりが、現代社会の歪みや生命のあり方、表現や死生観にいたるまで、対話を通じて思考していく。
ふたりの思考は常にふたつの対立する概念に収縮する。「ロゴス」という人間の考え方や論理を示す概念と「ピュシス」という自然そのものという概念だ。
福岡氏は言う。世界は「ロゴス」化しすぎている。人工的な社会のなかで最も身近な「ピュシス」は生物としての自分自身である、と。
3.『三島由紀夫論』|23年をかけてその生涯に向き合った思考の結晶
文壇登場時「三島由紀夫の再来」と言われた著者が、文学にのめりこむきっかけとなったのは、三島の『金閣寺』だったという。本書は、著者が23年の歳月をかけて三島の思想と向き合い続けた大著だ。
1970年に割腹自殺し、45歳でこの世を去った三島由紀夫。作家としても政治活動家としても、その生き様は今なお強烈な存在感を放っている。三島はなぜあのような死に方をしたのか。
著者は『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』という4つの作品論を通じて、三島の思想の軌跡を描きだしていく。身体が弱く兵役を免れた三島は、戦中戦後という大きな価値観の断裂のなかで、人生を通して“美”に拘り、自身の“美しい死”を追い求めていた。
4.『世界の広告クリエイティブを読み解く』|世界の事例を通じて、各国の価値観の違いを浮き彫りにする
学生時代に米国留学をしていた時、スロベニア人の友人から私のドライな人付き合いの仕方に苦言を呈されたことがある。国ごとに人間関係の価値観が異なるのだな、と感じた記憶が本書を読んで蘇ってきた。
ある国では好評な広告が、別の国では嫌がられるのはなぜなのか。海外のマーケティングに長年従事しているふたりの実務家が、海外のクリエイティヴ事例を通して分析する。
「バスケット・デーティング」という言葉をご存知だろうか。これは営業中のスーパーマーケットを、男女のリアルな出会いの場にするというプロモーションだ。コロナ禍にドイツの大手スーパー「Edeka」が展開したのは、来店した独身者が番号バッジをつけて買い物をし、気になる相手の番号をお店に伝えると、出会いの仲介をしてくれるというもの。
5.『仮説とデータをつなぐ思考法 DATA INFORMED』|文系人間こそデータやAIを使いこなせ!
2023年はChatGPTに代表される生成AIがビジネス界にも広がり、仕事の在り方も大きく変わっていくはずだ。これからのビジネスで成果を出すためにはデータ活用が不可欠だが、ではそのデータをどう活かしていけばいいのか。本書は、そんな不安を抱える文系ビジネスパーソンにとって、バイブルとなるだろう。
データ活用のために本当に重要なのは、数字やプログラミングのスキルではない。むしろ、知るべきはデータの使い方なのであり、自分の経験だけに頼るのではなく、データを活用してその仮説を合理的なものにアップグレードする「データインフォームド思考」が必要だと筆者は言う。