ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、坂本龍一と福岡伸一、長年親交のある二人による人生論『音楽と生命』をご紹介。
坂本龍一と福岡伸一による思考の軌跡
本書は、音楽家・坂本龍一氏と生物学者・福岡伸一氏の対話の記録だ。音楽と生物。異なる分野の大家であるふたりが、現代社会の歪みや生命のあり方、表現や死生観にいたるまで、対話を通じて思考していく。
ふたりの思考は常にふたつの対立する概念に収縮する。「ロゴス」という人間の考え方や論理を示す概念と「ピュシス」という自然そのものという概念だ。
福岡氏は言う。世界は「ロゴス」化しすぎている。人工的な社会のなかで最も身近な「ピュシス」は生物としての自分自身である、と。
坂本氏は言う。若い時のようにピアノを厳密に調律することがなくなった。人工的に作られたピアノに自然の音を出させてあげたい。当然音程は狂う。だが音程はすべて人間が決めたもので自然の音としては何ひとつ狂っていないのだ、と。
福岡氏の提唱する、生命を流れのなかで捉える概念「動的平衡」。そして坂本氏晩年の、音の存在自体を問うような音楽には私も大きな影響をうけている。2022年末のコンサートは、“祈り”のピアノだった。その音粒に自分のクリエイションが何度も救われ、鼓舞され、新しい景色を見せてもらった。
この本は今を生きるすべての人に向けた、たしかなメッセージである。
Seitaro Yamazaki
1982年神奈川県生まれ。セイタロウデザイン代表。「社会はデザインで変えられる」という信念のもと、デザインブランディングを中心に多様なチャネルのアートディレクションを手がける。