ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、村上龍待望の最新長編小説『ユーチューバー』をご紹介。
デザイン的かつ音楽的に描かれたコロナ禍の物語
本書はコロナ禍のユーチューバーをテーマに、配信される動画には決して映ることのない周辺にある人間たちの物語を描いた、村上龍待望の最新長編小説だ。
舞台の中心は、とある高級ホテル。七十歳になったばかりの有名な作家である矢﨑健介はホテルで出会った、自称「世界一モテない男」に誘われ、一本のユーチューブ動画を撮影することになる。内容は矢﨑の十八歳のころからの女性遍歴の独白だ。
「ぼくの最初の女性は、どこかで引っ掛けた女性でした」と、これまで明かすことのなかった、過去の女性たちとの赤裸々な秘話を淡々と語っていく矢﨑。この動画は二日間のみの限定公開でユーチューブにアップロードされ、SNSで拡散されることになり……。
私としては、村上龍の紡ぐ物語は多分にデザイン的で音楽的だと思う。ガーネット色の赤ワイン、汗をかいたアイスペール、モノクロ映像のユーチューブ……。意思ある画角で切り取られた映像の断片が、非連続なリズムをもって次々と脳裏に映しだされていく。そして本書の読後感として残るのは、ユーチューブという“記号”の奥に存在する、湿度をもった人間の痕跡である。
Seitaro Yamazaki
1982年神奈川県生まれ。セイタロウデザイン代表。「社会はデザインで変えられる」という信念のもと、デザインブランディングを中心に多様なチャネルのアートディレクションを手がける。