ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、戦争とデザインの関係をさまざまな事例をもとに解説する、『戦争とデザイン』をご紹介。
第一次世界大戦、ナチス、ウクライナ侵攻……デザインが狂わせる世界の均衡
本書は戦争におけるデザインを通じて、通常ポジティブに語られることが多いデザインの"負の側面"を提示する。近代戦争は国家間の情報戦争だとも言われるが、その情報を効率的かつ効果的に社会に伝播する手法のひとつが、デザインだ。
例えば、1917年のロシア革命。革命を主導したレーニン率いる左派・ボルシェヴィキは赤旗を掲揚(けいよう)し、反革命派との戦いを繰り広げる一方で、当時のロシア農民の識字率は極めて低かったこともあり、その事態を把握していない人々も多かったという。新しくできたボルシェヴィキ政府は民衆に対して革命の正当性を主張するプロパガンダを、テキストに頼らないビジュアルの形で示す必要があった。
そうしたなか、グラフィックデザイナーのエル・リシツキーは、プロパガンダ・ポスター「赤い楔で白を穿て」を制作。敵と味方を色という図式的記号に置き換えたシンプルな視覚表現は、文字を読めない農民に届く最適な方法として広く機能したのである。
よくも悪くも、デザインには社会を変える力がある。デザインを生業にする私としても、多くの人が負の側面も含めてデザインのことを理解し、上手に活用してほしいと思う。
Seitaro Yamazaki
1982年神奈川県生まれ。セイタロウデザイン代表。「社会はデザインで変えられる」という信念のもと、デザインブランディングを中心に多様なチャネルのアートディレクションを手がける。