ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊を、京大卒のオタク女子・三宅香帆が毎月ピックアップ! 今回は、「なぜウクライナ戦争が起きたのか」を丁寧に紐解き解説する、『ウクライナ戦争』をご紹介。
気鋭の軍事専門家が解き明かす、ウクライナ戦争の記録とプーチンの思惑
2022年2月24日に始まった、ロシアによるウクライナ侵攻。大方の予想に反して戦闘は長期化し、今でも多くの報道が日々世間をにぎわせ続けているが、「そもそもなぜこの戦争が起きてしまったのか」という問いに答えられる人がどれだけいるだろうか。
本書ではロシアの軍事・安全保障の専門家であり、さまざまなメディアでも引っ張りだこの小泉悠氏が、戦争にいたるプロセスや欧米諸国の思惑、日本を含めた世界への影響などを詳しく紹介。複雑に絡み合う国際政治の諸要素を丁寧に紐解き解説してくれるので、ウクライナ戦争の概要を学び直すにはうってつけだ。
また、プーチンが開戦に先立って掲げた3つの大義「ウクライナのネオナチ国家化」「ウクライナの核兵器開発」「ウクライナのNATO加盟によるロシアへの安全保障の脅威」の妥当性についても、著者は考察する。
個々の事実関係を知るだけでなく、プーチンの論理そのものについて理解をすることで、おぼろげだったこの戦争の全貌がくっきりと見えてくるだろう。断片的な情報だけではわからない、ウクライナ戦争の全体像を俯瞰で把握することのできる名著である。
Kaho Miyake
1994年高知県生まれ。書評家、作家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『女の子の謎を解く』等がある。