エンタメのありかたを通して過去の教訓から学ぶ
芸術と政治は別ものだ、関係ない、と言われることがある。私自身、昔は自分の好きな作家がインターネットで政治に関する発言をしていると「そんなことより作品の話をしてくれよ」と思うタイプだった。しかし本書を読むと、作家や芸術家が政治と無関係でいられることなんてあり得ない、と心から思うようになる。この本は戦時中の日本が、植民地や占領地でどのような文化工作を行ってきたのかを丁寧に読み解いていく。
例えば、田河水泡氏の漫画『のらくろ』。戦前に連載がスタートし、戦後も長きにわたり人気を博した『のらくろ』だが、その作者が満州で漫画を教えていたことを知る人は少ないのではないだろうか? 当時、漫画はプロパガンダ新聞で連載されていた。文化工作のために利用しようと考えられていたからこそ、満州でも、プロパガンダ漫画を描ける漫画家を育成しようと、政府が漫画教室を開いていたというのだ。そして漫画だけではなく、映画、小説も戦時下の国家宣伝に巻きこまれていった。
興味深いのは、作家も読者も、当事者たちはほとんど無自覚なままに、芸術が政治的意図に近づいていったこと。現代もそれと決して無関係ではなく、過去の教訓から学ぶことは多い。
『大東亜共栄圏のクールジャパン「協働」する文化工作』
大塚英志 著 集英社 ¥1,034
Text=三宅香帆
1994年高知県生まれ。書評家、作家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著書に『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『女の子の謎を解く』等がある。