ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は、平野啓一郎 著『三島由紀夫論』をご紹介。
23年をかけてその生涯に向き合った思考の結晶
文壇登場時「三島由紀夫の再来」と言われた著者が、文学にのめりこむきっかけとなったのは、三島の『金閣寺』だったという。本書は、著者が23年の歳月をかけて三島の思想と向き合い続けた大著だ。
1970年に割腹自殺し、45歳でこの世を去った三島由紀夫。作家としても政治活動家としても、その生き様は今なお強烈な存在感を放っている。三島はなぜあのような死に方をしたのか。
著者は『仮面の告白』『金閣寺』『英霊の声』『豊饒の海』という4つの作品論を通じて、三島の思想の軌跡を描きだしていく。身体が弱く兵役を免れた三島は、戦中戦後という大きな価値観の断裂のなかで、人生を通して“美”に拘り、自身の“美しい死”を追い求めていた。
著者は、私とは何かというアイデンティティの捉え方を軸に、作品やインタビュー、三島が影響をうけたテクストの引用を用いて論を展開していく。
デザイナーの私にとっても美は切っても切り離せない概念であり、『金閣寺』を話にあげることも多い。本書を通じて三島の人生、思考に寄り添うことができたのは非常に貴重な体験となった。ぜひ本書を手に取り、自身の思考にも沿わせながら読み進めてほしい。
Seitaro Yamazaki
1982年神奈川県生まれ。セイタロウデザイン代表。「社会はデザインで変えられる」という信念のもと、デザインブランディングを中心に多様なチャネルのアートディレクションを手がける。