2023年も、第一線で活躍する人々をインタビューしてきたゲーテ編集部。年末特別編として、数ある記事の中から2023年に特に読まれた人気記事を厳選した。今回は「スポーツ」編。
1.元阪神監督・矢野燿大への疑問②「好き嫌いで選手を選んでなかったですか?」
選手を好き嫌いで選んでいる──これは、コロナ禍に指揮を執り、かつチームを優勝に導けなかったすべての監督が受けた批判といえるかもしれない。外部から見えるのはその選手を使った、あるいは使わなかったという結果のみ。なぜそういう決断に至ったかという部分が、そっくり抜け落ちてしまったからである。
矢野ももちろん、そうした批判と無縁ではいられなかった。
「言われましたねえ、矢野は梅野が嫌い、矢野は坂本を贔屓してる(笑)。まあ彼らどうこうはともかく、一般論として、ぼくも人間ですから自分の中に好き嫌いがあることは否定しません。少なくとも、ゼロではないかもしれない。ただ、ぼくの中の好き嫌いと、自分たちの野球を貫くのとどちらを優先させるかと言えば、そんなもん、考えるまでもない」
ではなぜ、彼はワンバウンドを止める能力や盗塁阻止率、さらには打撃の能力に至るまで、数字上では明らかにチームナンバーワンのキャッチャーだった梅野隆太郎を、坂本誠志郎と競わせる形をとったのか。
2.J2町田の快進撃の理由! たった数ヵ月で再生させた黒田剛監督の『原理原則の徹底』とは
誰がこの快進撃を予想しただろうか。
J2リーグ第16節を終えて、単独首位のFC町田ゼルビア。東京都の南西部、人口約40万人の町田市を拠点としたプロサッカーチームである。
今シーズンからチームを率いるのは、黒田剛監督だ。
黒田監督は、青森山田高校のサッカー部監督を務めた28年間に、3度の高校サッカー選手権優勝を含め、計7度にわたり日本一のタイトルを獲得。また、人格者としても知られ、監督を慕って全国から多くの選手が入部する。そのなかから、柴崎岳(日本代表、スペイン・CDレガネス)や松木玖生(U-21日本代表、FC東京)など世界で通用する選手を生んできた。まさに「名将」の称号にふさわしい監督といえる。
その高校サッカーの名将が2022年、Jリーグの監督に挑戦することが決まり、大きなニュースとなった。当初は「高校とプロではレベルが違う」「Jリーグを甘くみている」など批判的なコメントやSNSの書き込みもあったが、開幕戦から6連勝などを挟み、勝ち点「36」で首位(第16節 2023年5月18日現在)。特筆すべきは第16節を終えて7失点というリーグ最小失点。昨シーズンは50失点でリーグ15位という低迷で終わっているゼルビアの守備力は、今季大きな変貌を遂げた。黒田監督はどうやって短期間で組織を蘇生させたのだろうか。
3.棋士・渡辺明「AI研究して戦えるのは45歳まで」
「負けました」
午後7時14分。藤井聡太が指した100手目△3六桂を見た渡辺が、そう告げて頭を下げた。藤井の史上最年少でのタイトル初防衛と九段昇段が決まった瞬間だった。
渡辺がタイトル奪還を目指して藤井に挑んだ第92期棋聖戦五番勝負。2021年7月3日に静岡県沼津市で指された第3局は、接戦のまま終盤戦に突入した。渡辺の攻め駒が藤井の玉に迫ったが、その切っ先を見切った藤井が絶妙手を放って突き放した。スコアは3勝0敗。藤井の完勝だった。
「いろいろあったが、終盤はわからなかった」。対局直後、渡辺はそう語った。残りの持ち時間が少ない中、気づいたら投了に追い込まれ、シリーズも決着──。急展開していく現実のスピードに、頭の中の整理が追いついていないように見えた。
藤井は2016年、中学2年でプロ入りした。「中学生棋士」の誕生は渡辺以来、16年ぶりのことだった。翌2017年、「公式戦29連勝」という新記録をデビューから無敗で樹立し、日本全国に「藤井フィーバー」を巻き起こしたことは記憶に新しい。
2019年2月。両者は第12回朝日杯将棋オープン戦の決勝という大舞台で、初めて対戦した。渡辺は、前年秋から数えて直近の成績が20勝1敗と絶好調。前回覇者の藤井との対戦はこれ以上ない豪華なカードだったが、勝利をつかんだのは16歳の藤井だった。
4.【小野伸二】今だから話せる、サッカー人生のなかで最も絶望した試合
試合に出たい、チームに貢献したい。
それにしても暑い。先週まで雪が降っていたのに、なんでこんなに暑くなったんだろう。ピッチにいる選手たちは大変だ。プレッシャーのかかる初戦、みんなよく頑張っている。
じりじりした展開、ピッチで戦う選手たちが疲れてきているのがわかる。
前線のタカ(高原直泰)とヤナギさん(柳沢敦)が前半からよく機能している。相当、走り回っていた。
オーストラリアが交代選手を入れた。75分、もう3人目だ。
アロイージか。でかいな。
ピッチを横目に、ウォーミングアップをしながら次の展開を予測した。
1対0。
後半に入って、追いかける展開のオーストラリアは完全にパワープレーへと舵を切っている。日本としては、中盤でボールを落ち着けたいところだった。
強いディフェンシブな選手を入れてロングボールを跳ね返すか、あるいはフレッシュなフォワードを入れて蹴ってくる選手にプレッシャーをかけるか……どっちがいい?
交代はフォワードか、ディフェンダーか。
出たいけれど、展開的に僕の投入はなさそうだった。
そう思った瞬間、名前を呼ばれた。
5.【宮市亮】自分を信じたドイツ代表10番ニャブリとの違い
フェイエノールトでの日々は、「最高に楽しい瞬間」の連続だった。
「ここなら絶対に通用する」
最初のトレーニングで手にした確信は、勢い任せの勘違いではなかった。フェイエノールトのマリオ・ベーン監督は18歳の日本人ウインガーを躊躇なくピッチに送り出し、まずは2011年2月6日のフィテッセ戦で初出場。1週間後のヘラクレス戦では、欧州主要リーグでの日本人最年少記録となるプロ初ゴールを記録した。
アジアとヨーロッパ、あるいは日本とオランダのサッカーの違いに戸惑うことはなかった。自分にとっての“武器”が何であるかを、宮市はオランダで再認識した。
「ベーン監督は、試合前日のミーティングで選手それぞれの基本的な動き方をホワイトボードに書くんです。しかも“矢印”だけで。ただ、左サイドに置かれている僕のマグネットには、いつも縦方向にバーンと長い矢印を書かれるだけでした」
ボールを持ったら、縦に仕掛けろ。
矢印が意味するベーン監督のメッセージは、つまり高校時代とまったく変わらないプレースタイルを宮市に求めた。だから、「めちゃくちゃやりやすかった」と振り返る。