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2026.06.28

森保一、個で勝つ×日本らしい和=世界で勝つ

2026年6月から7月にかけて開催中のワールドカップ北中米大会。日本代表はここまで順調な歩みを見せてきており、過去にないほど期待が高まっている。指揮を執る森保一監督は、歴代の代表監督のなかでも最多勝率を誇り、世界の強豪国を次々と撃破してきた。二度目の大舞台でいかなる采配を振るうのか。専門誌以外では唯一、直前インタビューがかない、決戦を前に世界へ挑もうとするその胸中に迫った。【特集 2026FIFAワールドカップ

森保一監督

日本人の誇りを胸に世界に挑むチームづくり

森保一監督は勝利への哲学として、「日本人らしさ」という言葉をたびたび口にしてきた。一見すると勝負の核心から遠いようにも映るが、これがチームの根幹をなしている。

「『日本人らしく』とは、これまでアジリティの高さや技術が主な解釈でした。ですがそれだけではなく、日本人の持つメンタリティ、文化面、習慣的な面も含めてチームづくりに反映させたい。そのうえで世界に挑み、勝っていきたいと考えています。立ち振る舞いでは『大和魂』を意識しています。日本人は自信を持っていても謙虚に振る舞える特長があります。『礼に始まり、礼に終わる』精神、相手をリスペクトする姿勢。日本人の普遍的なアイデンティティとして世界に誇れるものです」

具体的にいかなる局面で「日本人のよさ」を発揮させるのか。その狙いは精神面のみならず、肉体的な領域にも及ぶ。

「日本人の特長として『チーム一丸となって戦う』力があります。『和をもって貴しとなす』という言葉を、ピッチ上の連携、連動、あるいは協力し合い、支え合う姿で表現していきたいのです。サッカーの側面で言えば、俊敏性や高い技術力も日本人のよさでしょう。個々の力だけではなく、察する能力をお互いに分かち合い、つながって、組織として戦うことを大切にしています」

森保一監督
森保一/HAJIME MORIYASU
1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校卒業後1987年からマツダでプレイ。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年は京都パープルサンガ(現・京都サンガ)に期限つき移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。

一方で監督は「日本人らしさ」を土台に据えつつ、対極にある世界の潮流にも鋭い視線を注いでいた。サッカーの最先端を走るヨーロッパから学ぶ姿勢に淀みはない。「『和』だけで世界には勝てないことも感じていました」と指揮官は振り返る。

「世界のフィジカルモンスター相手に、日本は組織力で立ち向かおうと言われてきました。ところがヨーロッパを見ていると、組織の役割はあっても、極端に言うと『一対一はみんな勝て』という部分があります」

日本の場合、一対一の敗北を想定して組織的なカバーを準備する。対してヨーロッパでは、日本なら数的優位をつくる場面でも個の対応を完遂させ、「一対一で勝て」という要求が突きつけられるという。森保監督は、その個の強さを培ったうえで日本独自の組織力を融合させれば、自ずと勝利は手繰り寄せられると考えた。

「個々で勝っていくことで勝つ確率が上がっていく。組織で戦うことで『個』をうやむやにしない大切さを、ヨーロッパで戦っている選手たちを見てすごく感じました。勝敗を全体の責任だと考えるのは日本のよさですが、海外では『どこで誰が勝って、どこで誰が負けていたか』という責任をはっきりさせます」

だが、果たして日本人はその肉弾戦を制し得るのか。体格で勝る相手に対し、読みと知恵で対抗できるのかという疑念は常につきまとう。

「2022年カタールワールドカップのメンバーのなかでも、酒井宏樹や長友佑都はその強さを見せていました。彼らはイタリアやフランスのすごいアタッカーを相手に、前の選手が戻ってこなくても守っていたのです。日本人でもやれるんだと再認識しました」

遠藤航もまた、ドイツ・ブンデスリーガで2年連続「デュエル勝利数1位」という金字塔を打ち立てている。こうした選手たちの躍進を道標に、監督は「日本人らしさ」と「ヨーロッパ基準」の融合を確信した。ふたつの価値観を昇華させた新たな力を携え、勝つためのイメージを、監督は他競技を引き合いに出して説明する。

「日本のアイデンティティを大切にしつつ、個の責任をより負っていく部分をつくっていきたい。それがあれば、助け合うことや勤勉に戦うことは、日本人が自然とできることです。その考え方は陸上競技のリレーに例えられるでしょう。男子100メートルでメダルを取るのは難しい。それでもほとんどの選手が10秒から9秒台になれば、リレーでメダルが狙えます。日本人につなぐ能力、組織力を生かす能力は備わっています。ただし100メートル11秒台の選手がいくらつないでもメダルは取れません。世界に肉薄している選手がつなぐ能力を発揮した時、世界を狙える。そういうイメージです」

柔和な笑みを絶やさない森保監督だが、勝負の現場、そして選手を見定める眼光は極めて鋭い。提示する要求は、世界と伍するための「グローバルスタンダード」である。

「組織ということでうやむやにして個の力を上げなければ、強い組織になることはできません。どちらかというと組織力で勝つ、連携・連動で勝っていきたいと思ってきましたが、今は『個で勝っていく』ことを磨くことが世界を超えていくことにつながると確信しています。カバーから入るのではなく、まずは責任を持って自分の局面に勝つ。『数的不利でも守れるし、突破できる』と思えるようにしたい。そういうグローバルスタンダードの個の力を身につけた日本人が集まって組織として戦えば、世界で勝つ可能性はより上がっていきます」

勝つための組織をいかに構築し、どのような人材を揃えるのか。

「組織は個から成り立ちます。『和をもって貴しとなす』と言いながらも、目指すべきところは個へのフォーカスです。最終的に、またそれを和に持っていきたいのです。『和して同ぜず』ということも意識しました。漫画の『ワンピース』のような世界ですね。個々が特長を持ち、単独でも世界を渡り歩いていける人たちがいる。馴れ合いの仲のよさはありません。『仲が悪いのか?』と見えていても、必要な時、大切な時にはお互い助け合えるチームです」

招集される選手たちは、所属クラブで不動の地位を築く猛者ばかりである。しかし代表では、非情にもベンチを温めることや途中交代を命じられる場面が訪れる。心のなかに不満が渦巻きかねない個の強い集団をいかに束ねるのか。監督は静かに微笑む。

「選手たちは『俺が一番。俺が王様』と考えていていいんです。その選手たちが同時に仲間のため、チームのため、日本のために戦えると思ってくれるようアプローチしたいと思います。最初からチームとしてまとまれるような選手ばかりを集めるわけではありません。選手の選び方は、好きな選手を選ぶのではなく、輝いている選手、これからさらに輝けるという期待が持てる選手を招集させてもらっています。選手には、日常の活動から自分を選ばせるように存在感を放ってほしいと伝えています」

森保一監督
去る3月にサッカーの聖地、ウェンブリー・スタジアムで行われた国際親善試合イングランド戦にて、チームに戦術を伝える場面。この試合では過去の戦績も含めて初となる歴史的勝利をあげた。写真:JFA/アフロ

世界を知る選手たちと日本の最大値を追う

森保監督は2012年からサンフレッチェ広島を率いて国内リーグを3度制した。だが、選手としてワールドカップの芝を踏むことはかなわなかった。己が経験し得なかった最高峰の舞台を主戦場とする選手たちを指揮するにあたり、いかなる矜持を持っているのか。

「自分のサッカーの価値観と、サンフレッチェ広島の監督時代の成績を評価していただいて代表監督になりました。ですが、自分はトップチームは国内の1チームしか率いた経験がありません。海外でプレイしたことも生活したこともありません。そして、今の日本代表はほとんどが海外組です。世界を学んでいるつもりでも、国内しか知らない自分の価値観だけを押しつけるのは間違っているだろうと最初から思っていました」

監督は謙虚な言葉を継ぐ。

「日本が世界で勝つために最高かと問われると、そうではないこともわかっています。自分の考えていることがすべて正解だとは思っていません。ですが常に選手、日本の最大値を発揮するために、世界で勝つために、変化し続けられると思っています。こだわりがあるようでない、ないようである人間です。チームはベースのコンセプトがあっても、勝っていくために変わっていくものです」

己を「変えぬこと」を美徳とする指導者がいる一方で、森保監督は「変わること」を自身の特質に挙げる。そこには、自らが理想とするリーダー像が投影されていた。

「自分自身の可能性を感じる部分は、今までやったことが『違う』と思ったら変えられることですね。『日本サッカーファースト』で考え、日本の可能性を多角的に追い求めることができます。引っ張る力はありません。リーダーとしては、後ろから支える、押していくイメージですね。羊の群れの先頭に行くリーダーではなく、牧羊犬のように後ろから『みんなこっち行こうよ』と言うような役割です」

かつての代表監督には、強権的に指示に従わせるタイプも存在した。しかし森保監督は、その対極に位置する手法で結果を積み上げてきた。

「いろいろな選手、コーチ陣の知見を取りこみ、学び続け、吸収し続けてチームと選手の成長につなげていけるようにしています。考え方のベースを提示し、練習も試合も目標にも向かっていきますが、選手たちの世界の経験を取り入れながらやっています。選手は全員違うチームに所属し、戦術も役割も違います。みんながやっていることを取り入れ、自分の価値観と融合させて、チームの力を発揮できるようにしたいと、常に選手たちの話をオープンに聞くようにしています」

しかし対話を重んじれば、多種多様な意見が噴出し、衝突を招く懸念が生じる。この集団を統率する術は、どこにあるのか。

「個性を持った選手たちばかりですが、あまり『まとめよう』とは思っていません。できる限り個性を活かしたい。お互いが快適に過ごせる最低限のルールを持ってやっていこうという感じです。海外でプレイしている選手は、いろんな文化、価値観のなかにいます。『まとまらなくて当たり前』という感覚があり、相手の意見が違ってもストレスになりません。『察して言動する』のではなくて、言うことは言う。傍目にはぶつかり合っているように見えても、意見を言い合い、相手をわかったうえでまた一緒に進んでいく。みんな、相手のことをちゃんと『聞ける』人たちです」

「人たち」という呼び方に、監督の信条が滲む。相手を対等なプロフェッショナルとして尊重する姿勢の表れだろう。現代の選手は、プロとして自己主張はするが、内面をさらけ出す自己表現は希薄になったと評されることも多い。だが、森保監督の受け止め方はそれとは一線を画す。

「代表選手たちは今も昔も結局『個性的』です。以前は自己表現、自己主張する人が多かった。今は大人しくなったと言われたりしますが、大人がそう決めつけているだけではないかと思っています。思いはちゃんと持っています。意見を言ってくる人もいる。熱いものは今も昔も根幹は変わっていないと思って見ています。自己表現が弱くなっているところがあるのなら、それは引きだす側の問題でしょう」

そして監督は選手との対話において実践している具体的な手法を明かしてくれた。

「コミュニケーションの方法は、一対一の時とチーム全体に伝える時で変えます。全体に伝える時は発信することが多いですが、個々で話す時は先に相手の話を聞くようにしています。自分が先に話すとその話に沿った答えになってしまう。本心を知るために、最初に話してもらったうえでやり取りをすることを心がけています」

最後に、勝負師としての峻厳な横顔が覗いた。

「もちろん監督は『最終決断係』です。選手選考も含めて決めるべきことは多く、どこかに自分の主観が入っているとは思います。それでも『日本の最大値をどう発揮するか』が自分のテーマです」

目指すべき指標に照らし、不要な要素を削ぎ落とす。それが「最終決断係」の責務であり、そこに情を挟む余地はない。

重圧を勇気に変えて最高の準備で挑む心境

日本代表の試合終了後、たとえ雨が降るなかでも場内を歩き、スタンドへ深く一礼する森保監督の姿が常にある。背負う期待の重さを誰よりも理解しているがゆえの行動だろう。常に沈着冷静に見える指揮官がいかにして巨大な重圧と対峙しているのか、その内面に触れた。

「日本代表に対する期待を背負っているという意味では、すごくプレッシャーがあります。ワールドカップだからということではなく、普段から期待に応えたい。関わる人たちに喜んでもらいたいとやっています。『利己』と『利他』の両方があります。自分も勝ちたい。一方で、応援してくれる人たちに喜んでもらいたいという思いがあります。今は後者のほうがより強いですね」

歴代日本代表監督のなかで最高勝率を誇る森保監督だが、当然ながら苦杯をなめた経験もある。敗北の夜、指揮官がいかなる思考を巡らせるのかは、多くの者が関心を寄せる点だ。

「負けた時はもちろん落ちこみますよ。やっぱり勝つために戦っていますので。誰にも負けないぐらい勝ちたいと思ってやっていますから。期待を背負っているのもわかっています。ですが、結果というのは常に過去のことなので、過去をどう未来に生かすか、『成果と課題を未来にどうポジティブ変換するか』と切り替えられる性格は持っているかもしれません」

勝負の機微をどう捉え、どのような心持ちで決戦へ向かうのか。その答えは、勝負師としての覚悟に満ちていた。

「勝つか負けるかは神のみぞ知る領域です。勝つために最善の準備を積み上げ、試合では常に全力で戦い続けるだけです。結果を考えすぎるとストレスになります。自分にできる最高のことをやれるかどうかだと私は考えていますし、試合前まで全力を尽くし、あとは結果を受け入れるだけだという状態になっています。勝つことだけがすべてだとも思っていません。勝敗にかかわらず『チャレンジする姿勢』を見ていただき、共感、共鳴してもらいたい。プレッシャーはかかりますが、のびのびやっています」

極限のプレッシャーに晒される「監督業」において、監督が見いだしている悦びとは何か。

「監督が楽しいだけかと言ったら、そうではないですね。監督をやりたくてやっているわけではありません。今の自分のやれることでは優先順位の一番ですが、それ以上にやりたいのはプレイヤーですから。もっとも自分のなかの優先順位の一番上で仕事させてもらっているのは、幸せなことです」

監督の一挙手一投足に日本中の視線が注がれる。勝っても負けても批判される。そのようなストレスのなかで森保監督は日々を過ごしているはずだ。そう聞くと森保監督は笑いながらこう答えた。

「もちろんプレッシャーはありますが、ストレスはありません。強がっているつもりもありません。本当に楽しいかと聞かれると、楽しいとは言えないかもしれませんが、充実はしています。やれることは自分の全力を尽くすことだけです。深く考えていないのでストレスがないのでしょう(笑)」

ゲキをとばす森保一監督
試合中に檄を飛ばす森保監督。国際親善試合イングランド戦で見られたもの。「自分には引っ張る力はありません。後ろから支えるイメージ」と語りながらも、熱く選手を牽引している。写真:スポニチ/アフロ

日本人の力を証明して世界を追い越す時が来た

6月14日(現地時間)、日本はオランダとの初戦に臨む。掲げる目標は「優勝」だが、予選から強敵との死闘が続く。グループリーグを突破した時点で、すぐに優勝候補と戦う可能性もある。大会で1勝すらできなくとも不思議ではない。そんな厳しい戦いのなかで、見てほしいことがあると森保監督は言う。

「私たちの活動を通じて、『日本の誇りのために戦っている』ことを感じていただけたら嬉しいですね。勝って喜んでいただくのはもちろんですが、戦いを通して『日本人が日本人に誇りを持つ』ことに共感してくれる人を増やしたいのです。日本人の自己肯定感の低さは奥ゆかしさという特徴かもしれませんが、世界の中で日本人は絶対的に『できる』民族です。それをサッカーで表現したい。より共感してもらえる人が増えてほしいと思って戦い続けます。謙虚でありたいと思っていますが、勝ちたいですね」

日本人の自己肯定感に触れる言葉には確信が宿る。謙虚さを保ちつつも、勝利への渇望を隠さない。その戦いは、日本サッカーの歴史を塗り替えるための証明となるはずだ。

森保一監督

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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