93歳の現役最高齢トライアスリート・稲田弘さんと和田秀樹さん。肉体の壁、医療の壁を超えて走り続けるふたりの“超人”対談。稲田弘6回目。【そのほかの対談記事はコチラ】

続けられる限りやり続けたい
和田 トライアスロンは過酷じゃないですか。それを続けられる稲田さんのモチベーションは、どこから来るんですか。
稲田 まず楽しくなきゃやらないですよね。じゃあ何が楽しいのかと言うと……。昔はとにかくやることが楽しかったんです。だけど今はそれ以上に、多くの人の応援がモチベーションになっています。応援してくれる人がものすごく多くなって、それに応えたいという気持ちね。それが強い。
和田 素晴らしいです。結局、応援されるのは、何かにチャレンジしている人ですよね。その応援がハリになって、次のチャレンジができるわけです。だけど多くの人は、年を取るほどチャレンジしなくなってしまう。すると応援もしてもらえないし気持ちのハリもなくなる。ちょっと気の毒な言い方だけど、それが事実だと思うんです。
稲田 そうかもしれませんね。
和田 チャレンジは何でもいいんですよ。スポーツじゃなくても。小説書き始めるとか、新しい仕事をするとか。「応援なんていらない」と思うかもしれないけど、まったくく応援されなかったら、人間はハリが出ないから。
稲田 わかります。僕はアイアンマンというハワイ島のコナでやる大会に何度も出たんですけど。ゴールできたのは応援の力が大きいと思ってます。
アイアンマンの死闘。応援に背中を押された

和田 3回目の対談で伺った合計226kmの過酷なレースですね。
稲田 はい。コナのアイアンマンは朝の7時にスタートして制限時間が17時間なんです。
和田 え、そんなに。というかその時間で226km。
稲田 ゴール手前に100mくらいの花道があるんですけど。その両サイドに何重にも人が重なって声援を送ってくれるんです。ゴールの奥にもすごい数の報道陣や関係者がいて、その後ろにも観衆がわんさかいるんですよ。全員が笑顔で、拍手と大歓声で迎えてくれるわけです。
和田 すごいでしょうね。
稲田 それに最後の力をもらいましてね。大会で80歳を超えてるのは僕しかいない。だから余計に応援してくれたのかもしれないけど。84歳のときに世界記録、世界最高齢の完走者ということでね、ギネスにのって。だから2年後、86歳のときは大会の注目を集めていたんでしょうね。
和田 なるほど。それで余計に観衆が集まってきたんですね。
稲田 いろんな大会に出て最高齢で完走していたので、世界的に名前が知られていたみたいですね。大会の後、こんなに観衆が集まることはないと言われましてね。
和田 そりゃあ稲田さんを見たいでしょう。本物のアイアンマン、鉄人ですからね(笑)。
稲田 MCの人がね、僕のゴールする15分ぐらい前から「例の稲田が間もなく姿を見せるだろう」とずっと放送してくれたそうです。それで余計に人が集まったんでしょう。もうね、花道に入った途端、地響きするような大歓声なんです。僕は足が震えちゃってね。なんて表現したらいいのかな、感動というか。そういうなかでゴールしたんですね。そこに飾ってある写真がそのときのものです。

和田 いい表情ですね。
稲田 そりゃあもうね。会場の応援もすごかったけど、大会に出る前も世界各国の人たちから「今年、また頑張れ」とか「現地、応援に行くからね」という激励のメッセージをいただきましてね。Facebookでものすごい数来るんですよ。そういう人たちの期待に応えたいと思って。
和田 ゴールのときは満身創痍でしょ。疲れて、疲れて。
稲田 もうふらふらもいいところですよ。半分死んでるみたいな。このときもランの最後、あと12kmぐらいのところでかなり死にそうになったんです。坂道だったので、もう歩いてしまおうかと思ってたら、突然、知らない外国の女性が現れて「制限時間まであと何分しかない。歩いたらダメだ。走れ」と励ましてくれましてね。真っ暗闇から突然出てきて。
和田 へー。
稲田 坂の上までは彼女が後ろからついてきてくれて、下りになったら消えちゃった。
和田 誰なんですか。
稲田 後から知ったんだけど、その女性はイギリス人のプロでチャンピオンだと。その大会も1位でゴールして、その後で来てくれたらしいんです。僕と同じメーカーのバイクに乗っていて、その縁で来てくれたそうです。そんなね、いろんな応援があったおかげで制限時間ギリギリのあと5、6分のところで、最後までだれずにゴールできたんです。
和田 いいお話です。
稲田 それとかね、アメリカのNBCという局から密着取材されて。最初のスイムはヘリコプターで追いかけてきて、次のバイクではトラックで併走。最後のランはオートバイでついてくるんですよ。ゴールの花道入る手前までずっとね。密着されてるから、サボるわけにいかないでしょ。もうダメだという変な顔もできないしさ。それもゴールできた理由の一つでしょうね。
和田 やっぱり応援は力になるんですね。
稲田 何回もね、もう死にそうだと思いましたけど。応援してくれてる人たちの言葉とか顔なんかが浮かんでくるんですよ。仲間とかはネットで試合結果を見てるでしょ。日本からも応援してくれていると思うと、とにかく頑張らなきゃと。その度に力が湧いてきましてね。応援はやっぱり背中を押してくれるんですよ。
目標は終わらない

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。35年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁を超えた人たち』『幸齢党宣言』など著書多数。
稲田弘/Hiromu Inada (右)
現役トライアスリート。1932年大阪市生まれ。早稲田大学卒業後、NHKに勤務し、社会部記者として活躍。70歳でトライアスロンに初挑戦。2011年に78歳でアイアンマン世界選手権に出場し、2012年、2016年、2018年の3回、年代別世界王者タイトルを獲得。現在も現役選手。著書に『やれば出来る92歳のアイアンマン、世界を駆ける』。
和田 今後の目標みたいなのはありますか? 対談の5回目で110歳まで生きるというお話は伺いましたが。
稲田 僕はとにかく、続けられる限りやり続けたいです。もちろんどこかでできなくなるかもしれないけど、それは仕方がない。だけどできる間は、とにかく挑戦を続けたいですね。
和田 そうですね。
稲田 例えば、今度のレースは2週間後なんです。宮古島のトライアスロン。だけど今ちょっと膝を痛めてましてね。ランがうまく走れない。だから完走は難しいかもしれない。それでもスイムとバイクはなんとかいけるわけですから。
和田 カッコいいですね。
稲田 僕は今、バイクが絶好調なんですよ。いろんなことを試して、最近だんだん体の使い方がうまくなってきて、速くなってる。だからそれを試してみたい。途中で走れなくなってもいいから挑戦してみたいんです。今はそれが僕のモチベーションになってます。
和田 素晴らしいです。
稲田 もう少し長く生きて、頑張り続けたいです。
和田 応援しています。今日は本当にありがとうございました。もう驚きっぱなしでした。
稲田 有名な先生とお話しできて光栄です。ありがとうございます。

