地域政党「再生の道」を結党し、2025年6月13日告示の東京都議選を目前に控えた石丸伸二氏と、社会学者・西田亮介氏との対話から、前代未聞の方針の背後にある戦略を明らかにする。新書『日本再生の道』より一部を抜粋した記事をまとめてお届け! ※2025年5月掲載記事を再編。

1.【6月都議選】石丸伸二の新党「再生の道」に政策がない、は本当なのか?

西田 「再生の道」本体のお話をおうかがいしていきます。新党ができた当初から、「政策がない」という批判が向けられてきました。そうした意見に、僕は必ずしも同意するものではありません。どう見ていましたか。
石丸 「そう言われるだろうな」と思っていました。想定どおりで「ちょっとかわいいな」という感じです。ちっちゃい子がムキになって「キャーッ!」とやってくる感じ。「ああ、よしよし、よしよし」って。
西田 「『再生の道』には政策がない」と言っている人たちは、石丸さんが新党旗揚げのときに示したスライドを読んでいるのでしょうか。記者会見で質問している記者は、ろくに読んでもいないんじゃないですか。
石丸 横田一(はじめ)さん(黒いサングラスがトレードマークのフリージャーナリスト)とかですよね。
西田 〈地域政党として、広く国民の政治参加を促すとともに、自治体の自主性・自立性を高め、地域の活性化を進める。〉(「再生の道」が掲げる「目的〈Purpose〉」) これって政策であり、主張ですよね。
石丸 はい。
西田 みんな何を見ながら「『再生の道』には政策がない」と言っているのでしょう。
石丸 〈多選の制限のみ(2期8年を上限とする)。〉(「再生の道」が掲げる「綱領 〈Charter〉」) 。この綱領も、政策といえば政策です。多選の制限によって新陳代謝を促し、有為な人材を入れ、そして(2期の議員活動を終えた人材を外部に)輩出していく。都知事選のときと全然違った作戦を今回採っているのは、明確な理由があります。
2.石丸伸二「地方議員はメチャクチャ考えて、賛成か反対かをジャッジしないと」国会とは違う“二元代表制”を理解せよ

―― 著名な経営者とご飯を食べていたら、石丸さんの話が出たんですよ。その人が 「政策がないよね」と言っていました。「二元代表制では、議員は政策を提案できても執行する権利がないんですよ。だから議員が政策なんてもっていても、絵に描いた餅にな っちゃうんです」と僕が言ったら、「そうなんだ」と言っていました。経営者レベルのハイクラス人材でも、議院内閣制と二元代表制の違い(*2)について知らないみたいです。
*2―議院内閣制のもとでは、国会議員は有権者が選挙で選ぶ。内閣総理大臣は有権者による直接選挙では選ばれず、国会議員の投票によって決まる。 都道府県議会や市区町村議会では、議院内閣制が採用されていない。地方議会では二元代表制が採用されており、地方議員も首長も直接選挙で選ばれる。地方議会では予算や条例の提出権限をもっているのは首長であり、地方議員には首長が提出した予算や条例を採決する議決権しかない。明石市の泉房穂市長、安芸高田市の石丸伸二市長のように多数派与党に所属しない首長と地方議会は、意見が鋭く対立して予算や条例が簡単には採決されなくなる。「行政が滞る」とも言えるし、「首長と議会がナアナアの馴れ合いに陥らず、予算や条例は簡単には通過しない」とも言える。
石丸 「地方議会は国会をコピーしたものだ」ととらえている人が多いんですよね。みんな「とにかく議会で議席を取ることが大事だ。多数派工作が大事だ」というイメージをもってしまっている。
二元代表制の地方議会は、国会とは違います。それぞれの議員がポリシーを掲げるのはいいんですけど、(政党として)それをまとめにいくのは、単に(小池都知事と都民ファーストの会の関係性のように)首長与党を作って運営しやすくするための裏技だと感じます。
3.石丸伸二「再生の道」候補者選考に16〜24歳の面接官を入れた理由とは

西田 「再生の道」の候補者は、若い人たちの面接を受けるそうです。おもしろいですねえ。
面接官は16〜24歳を対象として公募。選挙区ごとに選ぶ(面接官に応募できるのは自身の住所や学校がある地域の選挙区)。「50人以上の団体の代表経験者(生徒会長等)を優遇」という条件を設け、2025年2月7日〜3月2日に募集した。
西田 なぜおもしろいかというと、もともと「再生の道」で公表された「政治参加を促したい」という話とつながるからです。16歳から24歳ということは、有権者と有権者ではない人が交じっています。
ご承知のとおり、投票年齢は20歳から18歳に引き下げられました(国政選挙では2016年7月の参議院議員選挙から実施)。18歳の投票率は高いんですよ。でも20代の投票率は30%ぐらいでして、とても低い状況です。19歳も20代と似ています。
投票率だけがすべてではないとしても、若者の政治的関心は総じて低い。その年代の人たちに面接官を務めてもらう取り組み自体、若者の政治参加を促していると言えます。ここに人が集まってくるとしたら、どういう人たちでしょう。政治とお祭りが好きで、ネットに親和性が高い若い人たちが関心を向けそうです。
石丸 (2025年2月8日の時点で)すでに応募があります。
西田 早いですねえ。
石丸 10件ぐらいザッと目を通したんですけど、こちらの期待どおり、生徒会長経験者や現役の高校生徒会長が「やってみたいです」と言ってくれています。
4.石丸伸二、古市憲寿氏をガン詰めした理由「イメージが100%悪くなるのはわかっていた」

西田 メディアに出ている石丸さんの写真は、どれも顔が怖いです。怖い顔写真かキリッとした顔写真ばかりが流通していますよね。「ポンコツ」と見出しを立てて記事を書きながら、かなり険しい表情をした顔写真を使うメディアもあります。
石丸 マスメディアはそういう映像や写真ばかりを厳選しています。
―― イメージも含め、石丸さんの得体の知れなさが怖いと感じる人も多いです。
石丸 そう思われていることはわかったうえで、敢えてそうしています。固定化したイメージを抱かれるのを恐れていたら、選挙特番の開票速報のときにスタジオのコメンテ ーターをいきなり詰めたりしませんよ。
西田 たとえば、この収録や過去にご一緒した配信では普通にキャッチボールをやってますよね。
石丸 「必ずこの場面だけが切り抜かれるな」と思ってやっていました。テレビも週刊誌もスポーツ新聞も、必ずこの場面を切り抜いて「石丸は選挙に負けたあとにキレていた」という論調にするだろうなと思っていましたよ。
2024年7月7日に東京都知事選挙を実施。日本テレビの開票速報でスタジオ中継を結んで、社会学者・古市憲寿(ふるいちのりとし)が石丸伸二にインタビューした。「都民はなんとなく蓮舫さんが2位、石丸さんが3位と思っていた。出口調査の結果を見ると石丸さんが2位です。うれしかったですか」と古市が質問すると、石丸は「いえ、特に。勝ち負けなどという候補者目線の小さな話をしていない」と返答。さらに「これはメディアに対する苦言ですよ。そういう煽り方をするから、都民、国民の意識がダダ下がりなんですよ。いい加減にわかってください」とダメ押しし、石丸陣営から大拍手が起きて古市の声が遮(さえぎ)られた。
さらに広島1区から国政に出馬する可能性に言及したことについて、「都知事選はただの踏み台だったのか。売名行為だったのか」と古市が畳みかけると、「論理が飛躍しているし、 下衆(げす)の勘繰(かんぐ)りでしかない。先ほど(国政選挙について記者から)訊かれたので可能性を言及しただけです。(今すぐ出馬する)意思はないとも言っている。文脈は把握していらっしゃいますか」と石丸が逆質問した。
5.石丸伸二「単に保護者が喜ぶだけならやらなかった」安芸高田市“給食無償化”の真の狙い

石丸 給食費の無償化は、安芸高田市がやってきました。家計の負担を減らすとともに、真の狙いは別にあります。これまたサプライサイドの話なんです。学校の給食費をどうやって徴収しているのか。実は学校の先生が集めているんですよ。未払いの家庭には 「今月の給食費、まだお支払いじゃないですけど」と先生に督促させるんです。
1クラスに40人いれば、そういう家庭は一つや二つは必ずあります。先生はそれだけで莫大な時間を取られるんです。なんなら「ないものはないんだ!」と逆ギレされちゃう。こうした事情は、必ず子どもに反映されます。「ウチは給食費を払ってないんだ」と子どもたちが気づいてしまい、まわりの子からバカにされる。
こんなものは負のコストでしかありません。だったら給食費なんて全部税金で出せば、問題は一発で解決するんです。だから安芸高田市では給食費をなくしました。学校の面倒くささを一掃するために、給食費を無償化する。これが安芸高田市の狙いだったのです。
財源を移譲して子育て世帯に再分配したいという意図もありましたが、それよりサプライサイド、先生の負担をなくしたかった。だから給食費を無償化した。これが実情です。
西田 ここでも発想がおもしろいですね。捻(ひね)りが効いている。