腐敗した都議会、そして地方議会から日本を甦らせる。そう掲げて、地域政党「再生の道」を結党した石丸伸二氏。「議員の任期は8年」「党としての政策は掲げない」という前代未聞の方針の背後にある戦略とは? 2025年6月13日公示の東京都議選を目前に控えた石丸氏と、社会学者・西田亮介氏との対話から、その考えを明らかにする。全10回。新書『日本再生の道』より一部を抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

―― 著名な経営者とご飯を食べていたら、石丸さんの話が出たんですよ。その人が 「政策がないよね」と言っていました。「二元代表制では、議員は政策を提案できても執行する権利がないんですよ。だから議員が政策なんてもっていても、絵に描いた餅にな っちゃうんです」と僕が言ったら、「そうなんだ」と言っていました。経営者レベルのハイクラス人材でも、議院内閣制と二元代表制の違い(*2)について知らないみたいです。
*2―議院内閣制のもとでは、国会議員は有権者が選挙で選ぶ。内閣総理大臣は有権者による直接選挙では選ばれず、国会議員の投票によって決まる。 都道府県議会や市区町村議会では、議院内閣制が採用されていない。地方議会では二元代表制が採用されており、地方議員も首長も直接選挙で選ばれる。地方議会では予算や条例の提出権限をもっているのは首長であり、地方議員には首長が提出した予算や条例を採決する議決権しかない。明石市の泉房穂市長、安芸高田市の石丸伸二市長のように多数派与党に所属しない首長と地方議会は、意見が鋭く対立して予算や条例が簡単には採決されなくなる。「行政が滞る」とも言えるし、「首長と議会がナアナアの馴れ合いに陥らず、予算や条例は簡単には通過しない」とも言える。
石丸 「地方議会は国会をコピーしたものだ」ととらえている人が多いんですよね。みんな「とにかく議会で議席を取ることが大事だ。多数派工作が大事だ」というイメージをもってしまっている。
二元代表制の地方議会は、国会とは違います。それぞれの議員がポリシーを掲げるのはいいんですけど、(政党として)それをまとめにいくのは、単に(小池都知事と都民ファーストの会の関係性のように)首長与党を作って運営しやすくするための裏技だと感じます。
<中略>
二元代表制におけるアクセルとブレーキ
石丸 (宮崎県知事の)東国原(ひがしこくばる)英夫さん(2007年1月〜2011年1月在任)の登場によって宮崎ですごい改革が起き、宮崎のイメージは変わりま した。あのとき宮崎県議会はどうだったのか。宮崎県知事の反対側に宮崎県議会があったはずです。でも、県議会の話は全然出てこなかったですよね。
知事の改革について宮崎県議はどうとらえていたのか。反対したのか。賛成したのか。東国原さんの人気があるから、首に縄をつけられて、ただ言うことを聞かされていたのか。それとも、知事と議論をした末での賛成だったのか。たぶん、誰も知らないと思うんです。宮崎県民ですら知らないんじゃないか。これって不健全だし、もったいないと思うんです。
―― 何が問題なんですか。ブレーキの役割としての議員たちの生の声がわからない?
石丸 コーナーを最速で抜けるためにアクセルを踏むときもあれば、ブレーキを利かせるときもあります。「あなたは本当にブレーキを踏んでましたか?」「ブレーキをかけてましたか?」という危惧です。
―― ブレーキにはメリットとデメリットがあります。「これをやるぞ。改革するぞ」 というときには、中途半端にブレーキを利かせるのではなく、「多少事故る可能性があってもアクセルを踏んじゃえ」というほうがいいかもしれません。(知事による)独裁のほうが強いときもあるじゃないですか。それを含めて「(議会が知事の仕事ぶりを)ちゃんと検証したのか」という問題意識ですか。
石丸 そうです。二元代表制のいいところは、1人の人間(首長)に権力を集中させるので、(改革の)コーナリングがうまくできるところなんですよ。1人の視点(首長の改革)を、違う人(議員)から多角的に評価してもらう。「今はアクセルを踏みこみすぎているな。ここで減速しないとコーナーを曲がれなくなる。コーナーを抜けるときにある程度膨らむよ」と(首長に)気づかせてあげるのが県議会の役目だと思うんです。
改革をもっと進めたほうがいいときには「ここはもうちょっとアクセルを踏もう。そのほうが速くコーナーを抜けられるよ」と示してあげる。
―― けっこう大変な仕事ですね。
石丸 そうです。
―― 自分の利権以外何も考えていないおじいちゃん議員がやれるような仕事ではない。
石丸 もっと強く神経を張ってメチャクチャ考えて、思考の末に賛成か反対かをジャッジしないと。(二元代表制の中で)首長以下執行部は全身全霊をかけて仕事をやっているのに、議会のほうはぬるいんですよ。賛成か反対か時々訊かれて、立ったり座ったりする。健康のためのストレッチみたいになってるんです。
―― 安芸高田市長をやっていた当時から、議員に対してそう思っていましたか。
石丸 市長のときに痛感しました。(地方議会の議員は)もともとそうなんだろうなとは思っていたんですよ。それこそ東国原さんのニュースを観ながら思っていました。「あれ? 議会はみんな何をやってるんだろう。二元代表制なのに(宮崎県議会の話題が)全然ニュースに出てこない。寝てるのかな」って。市長になってみたら、やっぱり寝てました。
※次回に続く(5/25公開)
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石丸伸二/Shinji Ishimaru
1982年広島県高田郡吉田町(現・安芸高田市)生まれ。京都大学経済学部卒業。三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)行員を経て、2020年8月に安芸高田市長選挙で初当選(2024年6月まで市長)。2024年7月、東京都知事選挙に挑戦。SNSとユーチューブ動画を駆使して「石丸旋風」を巻き起こし、165万8363票を獲得して現職・小池百合子知事に次ぐ第2位に食いこむ。2025年1月、地域政党「再生の道」を旗揚げ。来る東京都議会議員選挙(2025年6月13日告示、6月21日投開票)で、全42選挙区に最大60人の擁立を目指す。
西田亮介/Ryosuke Nishida
1983年京都府京都市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授、東京工業大学(現・東京科学大学)大学マネジメントセンター准教授、同大学リベラルアーツ研究教育院准教授を経て、2024年4月より日本大学危機管理学部教授。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院特任教授も務める。