自身のポリシーを貫き、圧倒的な仕事をする。そんなスペシャリストたちが「今の自分を表現するジャケット」をセレクト。その着こなしに、スタイルに、それぞれの生き様が見える。今回紹介するのは、俳優の渡部篤郎氏。【特集 大人のジャケットスタイル】

素材とシルエットを知り尽くし、たどり着いた「楽だけどカッコいい」
立っていても、座っていても、何気なく歩いているだけでも様になる。57歳、渡部篤郎氏の品格と色気は、その無理をしない生き様から醸しだされているのかもしれない。
「自分をどう見せようとか、どう見られたいとか、まったく考えないですね。髪も染めないし、基本そのまま。服も選ぶのにいろいろ考えるのが面倒だからいつも同じものばかり着ている。自分らしいファッションとかスタイルとかあんまり考えたことないけれど、“楽したい”と思っていたら、ここにたどり着いたって感じかな」
ファッションに興味がないわけではない。20代からスーツはオーダーメイドで仕立ててきた。当時は、トレンドのハイブランドのファッションに身を包んだこともあったという。
「プライベートだけでなく、衣装でもいろいろなものを着させていただくし、そこから学ぶこともありました。30代になったくらいになんとなく自分の好きな感じ、素材とかシルエットがわかった気がして、『こんな感じかな』って。そこからは同じようなものばかり着ています」
今回撮影で着用したスポーツジャケットも、持参したカシミヤのテーラードジャケットもポータークラシックのもの。吉田克幸と玲雄親子がMADE IN JAPANの技術を再興しようと2007年に立ち上げたこのブランドは、繊細なこだわりと高いクオリティで世界から高い評価を得ている。この日、渡部氏がスタジオに現れた時に着ていた私服の白シャツとブルーのクロップドパンツもポータークラシックのものだった。
「克幸さんには長年お世話になっているし、玲雄は兄弟みたいな感覚で2週間に1回くらいは一緒にご飯を食べています。彼らが作る服は、クオリティもシルエットも素晴らしい。シーズンごとに同じシャツやパンツを、色違い、素材違いで買っているから、クローゼットから適当に選んでもそれなりの格好になる。ブランドを応援したいという気持ちもあるけど、何より楽なんです」

海外を旅することをイメージして選ぶ
スポーツジャケットは、来年の春夏コレクションのアイテム。シルキーな素材感とシルエット、遊び心のある刺繍が気に入って購入を決めたそう。
「刺繍入りの服は初めてかな。でもおじさんがこんな服を着ているのもいいかと思って(笑)。これも生地がなめらかですごく着心地がいいし、季節に関係なく使える。ハワイとかで着ていてもいい感じでしょ」
長年愛用しているというカシミヤのジャケットは、1歳未満のホワイトカシミヤの子ヤギから採取される希少な産毛・ベビーキャッシュで作られたもの。軽く細く柔らかな繊維は、少し触れただけでもその着心地のよさを伝えてくれる。
「60歳手前になると、重い服を着ているだけでしんどい(笑)。これくらい軽いと本当に楽です。このジャケットはカーディガンのように軽く羽織ってもいいし、パンツのセットアップになっているから、ちゃんとした場所にも着ていける。旅の時も便利なんです」
服を購入する時は、海外を旅するときのことをイメージするのだという。
「リゾートへ行ったり、ちょっと素敵なレストランに行ったりすることを考えて、具体的なシーンが見える服は買っちゃいますね。スーツケースにパパッと放りこんでおけば、現地であまり考えずにコーディネイトができあがるのが理想的なんです」
世のおじさんが楽をしようとすると、途端にダラシなくなる。でも渡部氏は、無理せず、楽をして、カッコいい。おじさんの究極のスタイルがそこにあるように思えた。

渡部篤郎/Atsuro Watabe
1968年東京都生まれ。デビュー以後、『静かな生活』、『外事警察』(映画、ドラマ)など数多くの作品に出演。今後は2025年10月31日公開の『爆弾』、12月19日公開の『新解釈・幕末伝』に出演する。
この記事はGOETHE 2025年11月号「特集:スタイルのあるジャケット」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら