放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出した桝本壮志のコラム。

「今年40歳になる部門長です。チームを成長させていくうえで、現代のリーダーに必要なマインドとは何でしょうか? 桝本さんが40代で得た知見を教えてください」という相談をいただきました。
先に答えを言いましょう。令和のリーダーに必要なのは、「再解釈を面白がってみる」態度です。
ミドル世代に入る35歳くらいから、私たちは「物事を固定化して考える」、つまり若手時代に出した「経験上の答え」を、ずっと採用してしまうフェーズに踏み入ります。
分かりやすい例だと、指導方針、会議運営、部下の評価軸などです。
40代からは、そんな「答え」を疑い、過去問を解いてみる感覚で楽しんでみると、職場での立ち居振る舞いが変容していきます。
そこで今回は、僕が40代のときに試みた3つの再解釈を皆さんにもシェアしてみたいと思います。
デジタル至上主義でいいのか?
僕が35歳のとき、Twitter Japanが設立され、利用者は大幅増。
昼夜問わずSNSに触れる日々が始まり、職場もビジネスパーソンも一気にデジタル化されました。
若手時代、先輩に「作家をやるならトレンドをさわり倒せ」と教わり、それが答えになっていた僕はデジタルに没入していたのですが、あまりにも自分時間を搾取されるので一度立ち止まり、いろいろ調べてみました。
すると、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは、自分の子供にスマホやタブレットを決して持たせなかったという逸話や、マーク・ザッカーバーグやメタ社のクリエーターたちは、PCを使わず、屋外を散歩しながら会議していることを知ったのです。
そのころ、吉本NSCではリモート授業を導入する講師が増えていましたが、僕が対面にこだわり、アナログの重要性を再認識したことは言うまでもありません。
タフなリーダーが理想なのか?
ミドル世代は、若手のころに見た昭和気質な上司や、ドラマに登場していた熱血上司を無意識にお手本にしていることがあります。
僕もNSCの講師になったとき、おのずと金八先生やGTOの鬼塚といった「熱くてタフなキャラ」を採用してしまっていました。
ところが生徒たちと接していくうちに、それはお互いにとって「不健康な男らしさ」だと気づきました。
タフである、カリスマ性がある、弱音を吐かない、相談しないといった強さは、チームとの距離や孤立を生み出すばかりでなく、「常に自分は強い人であろうとするあまり、常に周りを弱い人に仕立て上げてしまう」という、不健康な事実を知ったのです。
そこから僕は、「不健康な男らしさ」を手放し、ソフトで、弱音を吐き、誰かに頼るリーダー像を模索。
組織の「トップ」というイメージでなく、組織の「土台」という意識を採用していきました。
「多様性」は他者を尊重すること?
ここ10年で、年齢、性別、性的指向など、さまざまな違いを認め、尊重していく多様性の概念が定着してきました。
いっぽう、お笑い界では、髪の毛の薄さや、ふくよかな体型を自虐ネタにしている芸人さんが多く、NSCの教室では、さまざまな葛藤が生まれていました。
そんなある日、一人の大柄な生徒がこう言ったのです。
「僕が自分のことを『デブ』って言っちゃダメですかね? そりゃあ、僕だって知らないヤツに『デブ』って言われるのはイヤですよ。でも、他人に言われたくないからこそ、自分で『デブ』って言って、笑い飛ばしたい気持ちもあるんですよ」
それを聞いたとき、ハッとしました。多様性は、他者を尊重することだと思っていましたが、一人の人間の胸の内にも「他人には言われたくない感情」と「自分では言いたい感情」がある。
この一人の中にある感情の違いも多様性であり、それを認め、尊重するべきなのではないだろうか? と。
これはあくまで個人的な再解釈なのですが、こういった思考を巡らせていくことも、チームと向き合うリーダーには必要なルーティンだと思っています。
よかったらあなたも、ゆっくり再解釈を始めてみてください。ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2024年M-1決勝に輩出。
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