腐敗した都議会、そして地方議会から日本を甦らせる。そう掲げて、地域政党「再生の道」を結党した石丸伸二氏。「議員の任期は8年」「党としての政策は掲げない」という前代未聞の方針の背後にある戦略とは? 2025年6月13日公示の東京都議選を目前に控えた石丸氏と、社会学者・西田亮介氏との対話から、その考えを明らかにする。全10回。新書『日本再生の道』より一部を抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

未払いの給食費を教員が取り立てる残酷
石丸 給食費の無償化は、安芸高田市がやってきました。家計の負担を減らすとともに、 真の狙いは別にあります。これまたサプライサイドの話なんです。学校の給食費をどう やって徴収しているのか。実は学校の先生が集めているんですよ。未払いの家庭には 「今月の給食費、まだお支払いじゃないですけど」と先生に督促させるんです。
1クラスに40人いれば、そういう家庭は一つや二つは必ずあります。先生はそれだけで莫大な時間を取られるんです。なんなら「ないものはないんだ!」と逆ギレされちゃ う。こうした事情は、必ず子どもに反映されます。「ウチは給食費を払ってないんだ」 と子どもたちが気づいてしまい、まわりの子からバカにされる。
こんなものは負のコストでしかありません。だったら給食費なんて全部税金で出せば、 問題は一発で解決するんです。だから安芸高田市では給食費をなくしました。学校の面倒くささを一掃するために、給食費を無償化する。これが安芸高田市の狙いだったのです。
財源を移譲して子育て世帯に再分配したいという意図もありましたが、それよりサプライサイド、先生の負担をなくしたかった。だから給食費を無償化した。これが実情です。
西田 ここでも発想がおもしろいですね。捻ひねりが効いている。
石丸 単に「タダになってうれしい」と保護者が喜ぶだけだったら、僕は授業料無償化も給食費無償化もやらないです。
西田 学校の現場の改善につながることが、教育費無償化の主目的である。
石丸 そうです。根本は、子どもたちがおいしい給食を食べられるかどうか。給食がどうなっているか、大人は学校の現場で起きている事情を知らないんです。
西田 自分が学校に通っていたときの記憶のままですからね。
石丸 昔の記憶が脳内再生されているだけで、実態と認識がズレていることはけっこうあります。だから問題が改善されないんです。学校には先生たちしか大人がいません。その大人は少数ですし、公務員という立場上、あまり積極的に発言できない。受益者は子どもです。被害者は子どもです。保護者に限らず、子育てしていない大人も含め、も っとそこに目を向けるべきです。政治的なテーマとして、教育の質、給食の質を改善する必要があると僕はずっと思ってきました。
石丸伸二/Shinji Ishimaru
1982年広島県高田郡吉田町(現・安芸高田市)生まれ。京都大学経済学部卒業。三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)行員を経て、2020年8月に安芸高田市長選挙で初当選(2024年6月まで市長)。2024年7月、東京都知事選挙に挑戦。SNSとユーチューブ動画を駆使して「石丸旋風」を巻き起こし、165万8363票を獲得して現職・小池百合子知事に次ぐ第2位に食いこむ。2025年1月、地域政党「再生の道」を旗揚げ。来る東京都議会議員選挙(2025年6月13日告示、6月21日投開票)で、全42選挙区に最大60人の擁立を目指す。
西田亮介/Ryosuke Nishida
1983年京都府京都市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授、東京工業大学(現・東京科学大学)大学マネジメントセンター准教授、同大学リベラルアーツ研究教育院准教授を経て、2024年4月より日本大学危機管理学部教授。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院特任教授も務める。