腐敗した都議会、そして地方議会から日本を甦らせる。そう掲げて、地域政党「再生の道」を結党した石丸伸二氏。「議員の任期は8年」「党としての政策は掲げない」という前代未聞の方針の背後にある戦略とは? 2025年6月13日公示の東京都議選を目前に控えた石丸氏と、社会学者・西田亮介氏との対話から、その考えを明らかにする。全10回。新書『日本再生の道』より一部を抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

都議選候補者VS16~24歳の面接官
西田 「再生の道」の候補者は、若い人たちの面接を受けるそうです。おもしろいですねえ。
面接官は 16〜24 歳を対象として公募。選挙区ごとに選ぶ(面接官に応募できるのは自身の 住所や学校がある地域の選挙区)。「50人以上の団体の代表経験者(生徒会長等)を優遇」 という条件を設け、2025年2月7日〜3月2日に募集した。
西田 なぜおもしろいかというと、もともと「再生の道」で公表された「政治参加を促したい」という話とつながるからです。16歳から24歳ということは、有権者と有権者ではない人が交じっています。
ご承知のとおり、投票年齢は 20歳から 18 歳に引き下げられました(国政選挙では 2016 年7月の参議院議員選挙から実施)。 18 歳の投票率は高いんですよ。でも20代の投票率は30%ぐらいでして、とても低い状況です。19 歳も20代と似ています。
投票率だけがすべてではないとしても、若者の政治的関心は総じて低い。その年代の人たちに面接官を務めてもらう取り組み自体、若者の政治参加を促していると言えます。 ここに人が集まってくるとしたら、どういう人たちでしょう。政治とお祭りが好きで、 ネットに親和性が高い若い人たちが関心を向けそうです。
石丸 (2025年2月8日の時点で)すでに応募があります。
西田 早いですねえ。
石丸 10 件ぐらいザッと目を通したんですけど、こちらの期待どおり、生徒会長経験者や現役の高校生徒会長が「やってみたいです」と言ってくれています。
候補者はホンモノかニセモノか 生徒会長の目線で見極める
西田 「50 人以上の団体の代表経験者(生徒会長等)を優遇」ということは、クラスの学級委員の規模ではないですね。生徒会長ぐらいの規模のリーダーに面接してもらう。
石丸 そこは悩みました。ある程度の集団の規模が、リーダーとしての資質の保証になると思うんです。バンドでもそうですけど、3人組とか5人組でも、リーダー格の人がいますよね。そういう規模のリーダーと、10 人、20 人、30 人、50 人のリーダーはだいぶ違うんじゃないか。(数十人規模だと)自分の目には見えないところまで動かさなけれ ばいけなくなってきますからね。1学級は30人から40 人です。それを超えた集団のリーダーがいいのではないか。これが僕の感覚です。
西田 「学級委員的なやつに面接させるのか」とか「生徒会長に面接させるのか」と批判的に言う人がいますけど、別に学級委員や生徒会長ばかりに面接させるわけではない。 いろんな集団でいいんですよね。
石丸 はい。生徒会長は一つの例です。
西田 16〜24 歳の若い人たちが、政治家に実際に会うことはほとんどないでしょう。石丸さんは先日まで市長でいらっしゃったわけですけど、生身の政治家と紙に印刷されている政治家は全然違います。期を重ねた政治家は、けっこう凄みがあるわけですよ。それこそ「迫力」としか言いようがない。 30 分とか1時間対峙(たいじ)していると、手から汗が湧いてくる。起業家もそうです。そういう感覚は、会って初めてわかる。実際に会ってみないとわからないものです。
―― 何もしゃべらなくても「この人はいろいろ修羅場をくぐってきたんだろうな」と わかる感覚はありますよね。
西田 おもしろいことに、面接官は面接するだけであって、候補者の審査には関わらないんですよね。
石丸 そうです。そこも悩んだポイントです。
西田 絶妙ですよ。
石丸 採点は僕がします。面接官に責任を取らせないほうがいいと考えました。ただし試行錯誤しながらやっているので、もしかするとあとで考えが変わり、面接官に採点し てもらうかもしれません。
―― 絶妙ですよね。もし変な候補者が立ったとき、「お前が選んだんだろ」と若い面接官に責任が押しつけられちゃう。すると、もう次にやりたくなくなっちゃいますもんね。
石丸 前例がないので、どういう反応になるかはまったく読めません。
西田 こういう取り組の例は聞いたことがないです。
石丸 まずは責任を僕に集約させて、(面接官の)リスクは可能な限り減らす。このやり方が、プロトタイプとしては正しいと思います。僕と候補者のやりとりを横で眺めているだけでも、意味があると思うんですよ。
西田 石丸さんと候補者のやりとりを、若い面接官が相当の至近距離で観察している。
石丸 会話に加わらなくても、当事者には気づかなかったことが見えるはずです。「あの人どうだった?」「あの人、ずっと目が泳いでましたよ」と、そこに1人いるだけで僕が知らない情報を集められるはずです。そういう情報を、審査の中に加味できるんじゃないでしょうか。
※次回に続く(5/26公開)
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石丸伸二/Shinji Ishimaru
1982年広島県高田郡吉田町(現・安芸高田市)生まれ。京都大学経済学部卒業。三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)行員を経て、2020年8月に安芸高田市長選挙で初当選(2024年6月まで市長)。2024年7月、東京都知事選挙に挑戦。SNSとユーチューブ動画を駆使して「石丸旋風」を巻き起こし、165万8363票を獲得して現職・小池百合子知事に次ぐ第2位に食いこむ。2025年1月、地域政党「再生の道」を旗揚げ。来る東京都議会議員選挙(2025年6月13日告示、6月21日投開票)で、全42選挙区に最大60人の擁立を目指す。
西田亮介/Ryosuke Nishida
1983年京都府京都市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部総合政策学科卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授、東京工業大学(現・東京科学大学)大学マネジメントセンター准教授、同大学リベラルアーツ研究教育院准教授を経て、2024年4月より日本大学危機管理学部教授。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院特任教授も務める。