インテリアデザインと切っても切れないアートと家具の関係。家具をアートとして捉える一方で家具は実用的なアイテムでもある。アートと家具の関係性はとても大切なものと森田恭通氏は話す。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」Vol.56。

アートと家具の融合で豊かな暮らしを手に入れる
我が家には多くのオリジナル家具があります。僕がデザインし、製作してもらったものです。「アートのよう」と言っていただくこともありますが、いずれも空間のバランスを見てデザインした実用的な家具です。
一方で最近は家具をアートと捉える方も多く、近年のピエール・ジャンヌレの家具の高騰ぶりを見るとそれを如実に感じます。毎年12月に開催される「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」にはデザイン・マイアミのブースもあります。椅子や鏡など、基本は一点物です。なかにはエディションがつけられているものもあり、販売と受注も行われています。ただ僕は、家具はあくまでプロダクトであって、制作者が自己表現するアートとは異なるものだと思います。
家具は本来座ったり、物を置いたりして使うもの。特にヨーロッパでは古来、椅子とテーブルで生活しており、そこに人々が華やかさや美しさを求め、装飾が加わりました。建築家やインテリアデザイナーは床、壁、天井と自分たちが思い描く空間をつくりますが、当然そこには思い描く家具やアートもあります。既製品で空間に合うものが見つかればもちろん選びます。でも見つからない時には僕もオリジナルで製作します。なぜなら家具も空間をデザインする一部だと考えているからです。
個人宅の場合、空間が完成したら、家主の方が自分で家具を選ぶこともあります。僕が手がけさせていただいた個人宅も、配置された家具やインテリアを見ると、その方の人柄や趣味が反映されていて非常に興味深いものになっています。なかでもインテリアとアートの関係は特別です。そこにはその方の趣向が往々に表れるからです。
例えば僕が今、日本でセンスよく実用されているなと思うのがファッションブランドソフ(SOPH.)の創設者・清永浩文さん。清永さんはアートコレクターでもあり、ご自宅には清永さんが好きなヴィンテージの家具やアートがバランスよく置かれ、しかも生活のなかで実用されているのが素晴らしいと思います。雑誌などに掲載されているので、機会があればご覧になっていただきたいです。
先日デザインを手がけさせていただいた赤坂のフレンチレストラン「ラ グロワ」も、アートと家具が融合したデザインの店舗。3年連続でミシュランの一つ星を獲得している、鳴海陽人シェフと工藤順平エグゼクティブ ソムリエとの新しいレストランです。シェフが作るエレガントな料理とソムリエが選ぶワインとのマリアージュ。
店の名前“ラ グロワ=栄光”からイメージしたのは、ヴェルサイユ宮殿。店内には僕自身が撮影したヴェルサイユ宮殿のモノクローム写真をアートとして飾りました。そしてオープンキッチンには、オリジナルの照明を設置しています。僕自身が撮影したヴェルサイユ宮殿のシャンデリアの写真8枚をそれぞれリブガラスにはめ込んだ照明は、一見アートに見えるかもしれませんが、それはあくまでも空間をコーディネイトするための実用的なインテリア・プロダクトです。
アートも家具も探れば探るほど日々の生活を彩り、人生を豊かにします。もちろん家具は機能性が大切ですが、デザインやアートの要素を加えて選んでみることで新しい世界が広がるかもしれません。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。