2020年コロナ禍のさなかオンラインサロンを開設した森田恭通氏。商いを一緒に考えようと「森田商考会議所」と名づけた。さまざまにあるオンラインサロンを、どのように利用したらいいのだろう。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」Vol.50。
オンラインサロンは究極のコミュニケーションツール
2020年「森田商考会議所」というオンラインサロンを開設し、おかげさまで5年目を迎えることができました。なぜオンラインサロンを開設したのか。クリエイティヴな仕事というのは、人と出会い、コミュニケーションのなかからさまざまな文化やアイデアを生みだしていくものだと思います。しかしコロナ禍で、初めてそれが断絶されました。何日も家族と猫と過ごす生活になり、自身のクリエイティヴが枯渇してしまうのではと不安に駆られました。
そんな話を友人であるレバレッジコンサルティングの本田直之さんに伝えたところ、「オンラインサロンを始めては?」と助言いただきました。彼自身「Honda Lab.」というオンラインサロンで、精力的に活動しています。
いざサロンを開設したところ、バラエティ豊かな方々が集まり、1名を除いて全員が初対面でした。起業家、経営者、歯科医、果樹農家、職人、アーティストなどなど、日本全国から参加くださっていて、総じて向上心があり前向きで、いい意味で貪欲。僕自身が刺激をもらえるうえ、サロン内でもたくさんのつながりができて、皆さんの仕事が広がっていくことが喜びとなりました。
森田商考会議所は「デザインの力であなたならではの商いを応援し、実現化を目指す」コミュニティです。例えば、静岡の会員の方から「地元食材の海外展開をサポートしたい」という相談に、僕が注目する海外の食品フェアを紹介したところ、実際に参加し、椎茸パウダーを販売。フランスのシェフたちが「旨味」に注目し、つながりができ、第一歩が踏みだせたと嬉しい報告がありました。
逆に彼女たちから地元の花火屋「井上玩具煙火」を紹介され、僕がそれを気に入って友人たちに送ったところ、そのなかでNIGO®くんが反応。なんとHUMANMADEオリジナルの花火を作り「HEART SPARKLERS」という商品が生まれ、今も販売されています。
オンラインサロンでの出会いがビジネスにつながるには、時間が必要ですが、お互いに仕事や人生の躓(つまず)きや迷いを打ち明け、メンバー同士がビジネスチャンスを共有していく。コミュニケーションの重要性を改めて実感しました。オンラインサロンは大人のための塾、そして究極の習い事だなと感じます。
大人になると年々“初めて”がなくなっていきますが、最近、僕の友人らのなかでのビッグニュースは、フランフラン創業者の髙島郁夫さんが俳優として事務所に所属したこと。何のコネもいっさい使わず、オーディションを受け、新しい世界に飛びこむその勇気に驚きましたが、「やってみたかったんだよ」のひと言。超アナログな僕もコロナ禍を経験しなければ、オンラインサロンの開設など考えなかったでしょう。でもサロンは僕に新しい世界を見せてくれました。
「どんなサロンに参加していいのかわからない」という声も聞きますが、あまり構えず、ラジオ番組を聞くような感じで気楽に参加してみてはいかがでしょうか。合わなければ抜ければいいだけのこと。人生、いくつになっても新しい可能性はそこかしこに潜んでいます。それを摑みとるか否かはその人自身。もっと気楽に、習い事感覚で新しい世界に足を踏みこむ勇気。それが必要なのだと思います。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。