「身なりは人を表す」というように、辣腕の経営者が愛用する靴や鞄は、持ち主の人生哲学や思想を如実に表しているものだ。今回は、SPEAC 共同代表・林厚見氏のアイテムから垣間見える仕事哲学を、いざ拝見! 【特集 靴と鞄】
求められる姿とありたい姿の間で揺れる自分を表現
「社会のいい面と悪い面、人間の普遍的な姿を描いていながら、遊び心があって日常のなかに未来を感じられる」
これは、個性のある不動産物件を紹介する東京R不動産などを手がける、スピークの林厚見共同代表による、「ドラえもん」の評である。建築・不動産の開発・再生プロデュースを手がけるスピークのオフィス内、建材が置かれた地下のスペースで、林氏は足元を指さした。
「コンバースのオールスターと『ドラえもん』のコラボシューズ。僕はコロコロコミック創刊時からの大ファンで、今でもグッズを集めてしまうんです」
限定品ゆえ中古をオークションで落札したが、履けば汚れてしまうので、再びオークションで探し購入。この「ドラえもんオールスター」は2代目だ。
「僕はもともと建築家を夢見ていました。けれど自分にできることを増やそうと20代では外資コンサル会社に入りビジネスを学んだ。ビジネスマンとして求められる姿と、遊び心のある空間や街をつくるクリエイターという、自分がなりたい姿。若い頃からその間で葛藤してきました」
普段は街を歩き、地主や投資家との交渉も行うため、ビジネススタイルにも合い、歩きやすいOAOの黒いスニーカーを履く。しかし「ワクワクする日」はこのドラえもんのオールスターと決めている。
「友人と会う日でも企画をプレゼンする日でも、オンオフ関係なく自分を解放して楽しみたい、と思う日に履いています」
経営者として求められる足元と、遊び心のある足元、今はともに履きこなしているのだ。
地に足のついた暮らしのため住人がデベロッパーに
林氏が現在愛用している鞄はF/CE.のバックパック。
「街を見て回ることが多く、ロードバイクでの移動が多い。なので手には荷物を持ちたくない。これは大容量で、そのわりに膨れて見えず、カラーも形もビジネスにも使いやすいけれど、アウトドア感もあって堅苦しくない。出張にもこれひとつで行きますよ」
建築を通して地域創生にも取り組む林氏。大手デベロッパーではなく、地元の人たちがその役割を果たせるような仕組みづくりに今取り組んでいる。
「モデルルームのような家とチェーン店ばかりが建つのは面白くないし、その地域らしさが死んでしまう。その地で暮らし、商売をしてきた人がデベロッパーとして地域をつくり直せたら一番いい。そういう方たちとビジネス戦略を立てながら、どんな空間をつくっていくかも一緒に考えている途中。日本でも郊外には古い建築が並び、まるで北欧のような美しい街ってたくさんあるんです。都心だけが人生ではない、地に足をつけて暮らしていくため、それぞれの地域を面白くしたいんです」
バックパックにはPC、温かいコーヒーを入れたタンブラー、眼鏡2種類に、自転車移動で寒くないよう手袋や耳当てなどなど、ドラえもんのポケット並みにたくさんのモノを詰め、今日も林氏は街を走り回る。
この記事はGOETHE 2025年3月号「総力特集:自分らしくいる、靴と鞄」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら