世界的な資材や人件費の高騰で、施工費の概算が大幅に上がったのではないかと話す森田恭通氏。だからといってデザインを諦める気はない。足りない予算は、クリエイションとアイデアで乗り切る。それが森田流なのだ。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である。」Vol.54。
世界的資材&人件費高騰をアイデアと工夫で乗り切る
森田恭通といえば、ロン毛に眼鏡ではないでしょうか。眼鏡はそのくらいひとりの人間のアイデンティティになりうる存在であり、単なる視力矯正ツールではない、ファッションアイテムのひとつです。“着る眼鏡”をコンセプトに生まれたアイウェアブランド、アイヴァンの京都・祇園、名古屋・栄に続く、3店舗目のデザインを今回手がけさせていただきました。
新店舗の代官山という“住宅街と商業地が重なる”立地を考え、散歩しながら気軽に入れるような店舗を思い浮かべました。そこで元の物件のガラスの外観を活かし、太陽の光が優しくガラスのレンズを通して入ってくるよう白い空間をイメージ。1階はアイヴァンのオリジナルブランドレーベルが一堂に揃う「THE EYEVAN」。2階は機能性を兼ね備えアクティブシーンにも対応するアイウェアブランド「Eyevol」のフロアです。
アイヴァンの山本典之社長からは、3店舗目ということもあり信頼をいただき、細かい要望は特になく、ほぼ自由にデザインさせていただきました。昼間は太陽光が入る明るい空間。そして暗くなってくると、ふんわりした光で街に溶けこむ店舗です。
ここ数年、僕の仕事の悩みの種は、資材や人件費が驚くほど高騰したことで、以前より大幅に施工費がかかってしまうこと。でも予算でデザインを諦めずに収めたい。それをアイデアで乗り切るのが森田流です。
今回、1階のギャラリーには、型板ガラスのひとつであるモールガラスで三角柱を作り、その中に小さな電球が連なる照明を入れ、無数の光の粒が煌めくパーティションを作りました。表面が波状のガラスを使用することで、光がさまざまな角度に屈折し、日中と陽が落ちてからでは、まったく違った雰囲気になります。
2階のEyevolのギャラリーは木を活かした空間に。日常、スポーツ、アウトドアなど、さまざまなシーンをボーダレスに楽しめ、アスリートからの支持も高いアイウェアが並びます。アクティブさも欲しいと考え、木を削りだして動きをつけ、そこにEyevolのロゴを潜ませました。
どちらのフロアも眼鏡のデザインが際立つように白い背景。さらに在庫を保管する収納スペース。お客様が眼鏡を試着してすぐに確認できる鏡を随所に配置するなど考慮しました。店舗デザインの場合は、お客様とお店で働くスタッフの双方に使い勝手のいいデザインでなければならないと僕は思っています。
店舗を手がける際、ひと目であのブランドとわかるような統一感が一般的なセオリーです。しかし、僕が担当させていただいたアイヴァンの店舗は京都、名古屋、東京と、それぞれに異なりながらも統一感のあるデザインを提案しました。
というのも、物件にはロケーション特性があるので、それを活かしながらデザインすることで“そこにしかないもの”が生まれる。特にアイヴァンのクリエイティヴに対しては、店舗デザインもさまざまにしたほうがいいように感じました。なぜなら、勢いがあるブランドなので「各地で面白いクリエイティヴを展開している眼鏡ブランド」を店舗デザインで表現することができるからです。
ブランドらしさを、クリエイションとアイデアでカタチにした店舗になったのではないかと自負しています。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。