2023年度ベスト・プロデュース賞を受賞した森田恭通氏。森田氏が自身の仕事を俯瞰することで見えたものとは。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.42。
あらゆる仕事に必要なプロデュース力を養う
このたび、日本生活文化推進協議会が主催する2023年度第10回ベスト・プロデュース賞をいただきました。この賞はさまざまな分野で、生活に豊かで潤いを与える企画や活動をする人物や企業、プロジェクトに授与されるものだそうです。僭越(せんえつ)ながら賞をいただく機会を得たので、改めてプロデュースについて考えてみました。
インテリアデザイナーという仕事には、必ずクライアントがいて、そのプロジェクトが求めるものを理解し、結果を出さなければなりません。オフィスの場合、そこで働くスタッフだけでなく、来社される他の企業の方もいらっしゃいます。飲食店の場合は、オーナーの要望のほか、訪れるお客様が満足し、さらにスタッフが快適に過ごせて使いやすい機能性も必要。つまりひとつの空間を仕上げるには、さまざまな目線が必要で、一方向からの視野では成立しないのです。
例えば先日オープンした「THE EYEVAN名古屋 栄」。知人を介して山本典之社長と知り合い、食事の席で「名古屋に出店したい」という話をうかがいました。本来僕の仕事は、空間をデザインすることなのかもしれません。しかし、その日お話ししたのは、名古屋で僕がいくつか物件を手がけさせていただいたこともあり、立地を含めてのご提案でした。
山本社長にお薦めした場所は街の中心から一本入った通りですが、ひと言でいうと感度の高い人が集まる場所。近くにセレクトショップ、高級時計店などが並ぶ通りなので「洋服を買ったら、アイヴァンで素敵なメガネも買いたいな」といったように“買い物の連鎖”が生まれると僕だったら思うからです。
メガネは視力矯正の道具である一方、ファッションとして楽しむ側面もあります。アイヴァンは“着る眼鏡”をコンセプトに眼鏡を洋服のように楽しむことを発信したアイウェアブランドでもあります。そういったエンドユーザーを狙える立地提案をすることも、僕なりのプロデュースでした。
また以前、悪性腫瘍専門の病院をデザインさせていただいた際は、患者さんのストレスを軽減できるような空間づくりを第一に考えました。待合所で先生に呼ばれるまでの時間は、病への恐怖や不安などがあるかと思い、待合所の廊下と診察室を同じ空間にし、シームレスなデザインにしました。待っている間に先生の顔が見える。時に患者さんと笑い合っている姿も見えれば、少しでもストレス軽減されるのではと思ったからです。
デザインを考える時、お店のオーナーになってみたり、あるいはレストランに出かけるヒールを履いた女性になってみたりと、あらゆるシチュエーションを自分に想定して考えてみるのです。
もし僕にプロデュース力があるのだとしたら、フラットでニュートラルな姿勢でいられることかなと思います。スタッフにも「オフィスにいるだけではアイデアは生まれない」ので、バーやレストラン、ホテルや商業施設、美術館に行き、常に自身をフラットな感覚にしておくよう話しています。
トップギアで走っていると視野が狭くなりがちですが、ニュートラルな状態ならさまざまな視点から物事を捉え、受容することができる。それでこそ、あらゆる方向に視野を向けられるプロデュース力が鍛えられると僕は思います。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。