コロナ禍での中断を経て、再びパリで写真展を開催した森田恭通氏。同時期に開催されたアートフェアを通じて、今の日本に閉塞感を感じたそう。これからの日本は、今まで以上にひとりひとりが勝機を探り、世界へ発信すべきだという。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.41。
5年ぶりにパリで写真展を開催。そこから見えた日本の今
先日、5年ぶりにパリで写真展「陰翳礼讃(いんえいらいさん)伊勢神宮」を開催しました。在フランス日本国大使館公邸に伊勢、志摩、鳥羽の3市長を招いて行われたイベントを無事に終え、また、写真展には国内外から多くの方が訪れてくださり、盛況に幕を閉じることができました。
今回の写真展のテーマは伊勢神宮です。2016年から毎月、伊勢神宮に通い、撮りためてきた数万点にもおよぶ写真から31点を厳選して展示。これまで連綿と行われてきた神事や神職の美しい所作、建物の細部などを、“光と影”をテーマに撮影させていただきました。
実は日本をテーマにした展示は今回が初めてで、パリで個展に挑戦するにあたり、日本文化を敢えて前面に表現するような作品制作は避けてきました。しかし、日本の原点ともいえる伊勢神宮を、日本の文化や美しさを、もっと世界中の人に知ってほしいという思いが募り、今回テーマに選ばせていただきました。
コロナ禍が落ち着いて、再び海外を行き来するようになり、日本の存在感が以前に比べて弱まっているように僕は感じました。
例えばアート界。写真展と同時期にパリでもアートフェアが開催されていましたが、各地のアートフェアに行くと、韓国勢の勢いを感じます。韓国には、国をあげてアートやエンタテインメントなどのクリエイティヴへ支援する力を強く感じ、それを追い風にさまざまな分野のアーティストがグローバルに戦っている。
実はアートが活況を呈しているということは、経済活動が盛んになるということなんです。さまざまな側面から世界の成功している経営者はアートに行きついています。アートに触れていると文化・経済・社会に関する知識が必要とされ、直感力や創造力が鍛えられる。
また、アートを購入するという決断は、ビジネスにおける意思決定力の涵養(かんよう)にも役立つ。そのなかで世代を超えて受け継がれていくアートは、価値観が多様化していったとしても、さらにその先の価値を生みだしていく。だから世界を俯瞰で見ると、アートが動いている国には、成功者がとても多いのです。
日本にも魅力的なものはたくさんあります。そして、それらを存分に活かして世界と勝負することはまだまだできるはずで、可能性に満ち溢れている。それがデザイナーとしての僕はとても歯がゆい。待っていても、時間が経つだけです。だから僕は生きている間に自分ができることをやるしかないと思うのです。
写真展を始めて8年が経ちました。ここ数年、僕の活動をずっと見ていた方がご縁をつないでくださり、今回の個展やヴェルサイユ宮殿の撮影という大きなプロジェクトを実現させることができました。点と点がつながってやりたいことが広がっています。実は今回のパリでの滞在中に、新しく撮りたいと思うテーマを見つけました。これはまた壮大なチャレンジになりそうです。
物事をネガティブに捉えるばかりではなく、自分ができることをひとつでも実現させる。小さな歯車が大きな力に。今はそう考え、前進あるのみだと思っています。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。