森田恭通氏の大先輩であり、友人でもある、世界的に著名なデザイナー、アラン・チャン氏。デザイナーという枠を超えたアラン氏に影響を受けたという。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.36。【過去の連載記事】
クライアントをリードする、アラン・チャンの魅力
香港で、いや世界で活躍するデザイナーといえばアラン・チャンさんではないでしょうか。三井住友銀行のロゴや日清ラ王のパッケージ、丸の内カフェのプロデュースなど、日本でも数多く手がけています。
彼との出会いは僕が30歳の頃。彼はグラフィック、僕はインテリアと、分野は違えども同じデザインの仕事に従事。アランさんは18歳年上ですが、とてもフランクでユーモアのある方。今でこそ、デザインの世界ではグラフィックとインテリアにボーダーはありませんが、当時はそれが存在し、彼と知り合ってからそのボーダーが徐々に薄れていくという時代の変化を体感しました。
また、彼はデザイナーであると同時に、最高のビジネスパーソンでもあります。一般的にはクライアントから依頼を受け、そのコンセプトに沿ったデザインを仕上げるのがグラフィックデザイナーの仕事だと思います。しかし彼の場合は「こういうスタイルのカフェをつくりましょうよ」と提案し、それを実現させてしまう。そうして何度か彼が得た仕事で、彼がグラフィック、僕がインテリアを担当するということもありました。
彼はシノワズリーなデザインはもちろん、企業広告やロゴも作ることができる。さらに自分自身を熟知していて“アラン・チャン”というキャラクターも、ひとつの武器として活かしています。もちろん73歳の今も現役。講演会などにも引っ張りだこのようで、大学やアート関連施設で、毎週のようにアートやデザイン、ファッションについて熱く語っていることでしょう。
デザイナーでありながら優秀なビジネスパーソンでもあるアラン・チャンさん。彼は成功を見抜く才にも長けており、彼が携わったベンチャーが後々大企業へと育った例も少なくありません。それはある意味、彼がクライアントをビジネスにおいてもリードできるデザイナーだからだと言えると思います。彼は“デザイナー”の生き方を変えた人であり、ビジネスを生みだすデザイナーの先駆者だと思います。僕自身も彼のそばにいて、非常に刺激を受けました。
先月、久しぶりに香港でアランさんに再会しました。仕事で香港を訪れた際に「新しく作った自分のサロンを見においで」と言ってくれて、香港の中心地からクルマで20分ほどの場所へ。一瞬、本当にここかな? と躊躇(ため)らってしまうようなビルに入ると、昔ながらの香港スタイルのクラシックなエレベーターがあり、乗りこんでも行き先ボタンがない(笑)。でも目的階でドアが開くと、そこには美しいアラン・チャンの目くるめく世界が広がっている! そうなんです。この建物自体がサプライズ。相変わらずのアラン節に感服しました。
僕は常々、経営者にはセンスが必要だと考えています。これからビジネスを始める人には、彼のようなセンスと才能に満溢れた人材が仲間となってくれたら最高ですよね。そして自分を側面からも支えてくれるような人脈を持つことができればさらにベスト。そのためには誠実な仕事をし、夢を実現できるような有言実行の人になることが大切だと僕は思います。そうすることで自然と人脈を築くことができ、仕事の幅も広がっていく。そのことをアランさんとの出会いが教えてくれました。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。