デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは?
——100年に一度といわれる、渋谷の再開発。東急プラザに続き、MIYASHITA PARKでも施設にあるふたつの店を手がけた森田氏。同じ施設内の店を同じデザイナーが? そこにはセンスある経営者ならではの、デザイナーへの秘められた信頼があった。
デザイナーの趣味だけでなく、経営者の個性に合わせたデザインを具現化する
コロナの影響で開業が遅れていた、三井不動産のプロジェクト「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」が、7月28日より順次開業しました。
線路脇で、公園というより駐輪場や駐車場などのイメージがあった宮下公園が、渋谷と原宿という二大エリアをつなぐ、全長330mの地上3階建の商業施設に生まれ変わり、その屋上はニューヨーク・チェルシーのハイラインのような公園が広がっています。今回、その施設内の2軒の店舗デザインをグラマラスが手がけさせていただきました。
同じ施設に、同じデザイナーの店? と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。でもセンスのある経営者だからこそ、かなう案件でした。最初に声をかけてくださったのは、レストラン「リゴレット」などを全国展開するHUGEの新川義弘社長。
30年以上の付き合いですが、実は仕事を一緒にするのは初めて。「よし、やろう」と話が進み始めると、日本各地に飲食店を展開するバルニバービの佐藤裕久社長からも同じ施設内の店舗デザインを依頼していただきました。もちろん双方に同じ施設の物件を手がけるということを予めお伝えしました。過去に別の方から同じ施設内で複数の店舗デザインを手がけないよう言われたこともあります。もちろん、その気持ちもわかります。
でも新川社長や佐藤社長は「気にしないよ」「違うデザインになるでしょ」と。これは裏を返せば、ふたりの経営者がデザイナーの本質を理解したうえで、オーダーしているということ。森田デザインは、ひとつのプロジェクトごとに完全なオートクチュール。センスのある経営者は、ぼんやりとしたイメージのなかにも一本筋がとおっていて、それを僕が雑談のなかから見極める。もちろんふたつの店は、まったく違うものに仕上がりました。
北街1階、ルイ・ヴィトン、グッチ、バレンシアガと並ぶ路面店のひとつ「DADAÏ THAI VIETNAMESE DIM SUM」はベトナム料理のレストランバー。エスカレーターの下で天井が斜めという悪条件を逆手に取り、ここに店のミューズ的な存在を作ろうと、画家の佐藤誠高(なりたか)氏に依頼し、5m級の巨大なアートを飾りました。インテリアはコロニアル調に、1920年代のベトナムらしくフランス文化を取り入れたダダイズムの要素をプラス。
そして北街3階の「NEW LIGHT」はアッパーカジュアルなレストランなので、アート好きのオーナーの家に遊びに来たような雰囲気に。関根正悟さんのイラストやジョン・ポールのアートを飾り、まるでギャラリーのような店内です。オープンキッチンを眺められ、全体的に開放的な印象にしました。
デザインは僕ひとりで作るものではなく、まずはクライアントの意向をしっかり捉えること。クライアントの個性をいかに先回りして汲みとるか。そして、いい意味で期待を裏切ることが求められます。そこにクライアントと森田の化学反応が生じ、唯一無二のものが生まれる。それを楽しめるセンスある経営者との仕事は、やりがいを感じます。さまざまな条件のなかで常にホームランを打たなければいけないというプレッシャーはありますが、だからこの仕事はやめられないですね。