どんな場面においても、初対面の相手に自分の意図を汲んでもらうことはなかなか難しい。国内外の企業やクライアントを相手に、数々のプレゼンテーションを積み重ねてきた森田恭通氏に、ビジネス的“初対面必勝法”を聞いた。デザイナー森田恭通の連載「経営とは美の集積である」Vol.40。
記憶に残る会話力
46歳からインテリアデザイナーのキャリアとは別に、アーティスト活動として写真に取り組み、2015年から毎年パリで個展を開催してきました。コロナ禍の中断はありましたが、パリを含め、これから国内外での個展開催をいくつか控えています。
2023年9月27日から東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催する「In Praise of Shadows‐ヴェルサイユ宮殿 森田恭通 写真展」が最初の展示です。「ヴェルサイユ宮殿の撮影許可、よく下りたね」と驚かれますが、実はこうした文化建築を擁する財団や企業など初対面の方との交渉は、デザインの仕事の現場でも数多く経験してきました。
この人、いったいどこの誰? の状態から、信頼を得るためには。今一度考えてみました。
僕はどうしてもこの仕事がしたいと思った際は、アポイントを全力で取り、正面からぶつかってみます。その際に準備するのが共通言語となる「接点」です。親しい方に紹介していただける場合はラッキーですが、そう上手くはいきません。そんな時に、共通の知人の名前や、過去にコラボレーションしたブランド名を出させていただくこともあります。そこに相手が「あそことも仕事をしているのか」と心のガードを下げてくれたら、一見さんから一歩前進です。
実は人見知りで、初対面の人と話すのは苦手。無意識の自己防衛なのか、不要に喋りすぎてしまうクセがあるので「変なヤツ」と思われる1歩か、いや2歩手前に抑えています。相手を不快にさせては元も子もありませんから。
もちろんそこまで攻める際は、プレゼンテーションの準備を万全にしておく必要があります。完璧な用意があってこその、初対面必勝法です。
ヴェルサイユ宮殿の個人的な撮影許可はほとんど下りたことがないと聞いていました。幸い僕のアーティスト活動をご存知だったシャネルのリシャール コラス会長が「現代のフランスの礎ともなった時代、その象徴でもあるヴェルサイユ宮殿を今までとは異なる切り口で伝えたい」という僕のコンセプトに共感してくださり、ヴェルサイユ宮殿側と粘り強く交渉し、シャネル・ネクサス・ホールでの個展開催に向けて尽力してくださいました。
そして2023年10月18日からパリのサン・ジェルマン・デ・プレにある「Hotel de l’Industrie」で行う個展の題材は、伊勢神宮。日本の起源ともされている伊勢神宮を撮影したいと猛烈に想いを募らせましたが、ツテはなかった。途方に暮れ、伊勢の友人に相談したところ、その友人が伊勢市長と懇意にされており、話した3日後には市長に会うことがかないました。そのご縁で伊勢神宮へと通い、神宮司庁の方々にさまざまな教えを請(こ)い、撮影する機会をいただきました。まさに点と点が繋がった瞬間でした。
点と点が繋がれば、いつか目的地に辿(たど)りつく線になる、というのが僕のモットーで、僕は決して諦めません。もちろん提案は、必ず相手方にとってもハッピーになることが大前提。そして初対面でも相手の記憶に残る会話もとても重要だと思います。
初対面で信頼を得るためには、会話のキャッチボールができるよう、日頃から幅広い知識を身につけ、どんな内容の話でも打ち返し、なおかつ相手の記憶に残るエピソードを披露できたら最強ではないでしょうか。
森田恭通/Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍する傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」を主宰。