常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで太田宏介氏と対談した連載3回目は、「リーダーのあるべき姿」について。【連載をすべて読む】
キャプテンは、選手・スタッフの投票で決める
太田 僕のこれまでの経験では、チームのキャプテンは監督が指名するものでした。でも、黒田さんは、去年、そして今年も、キャプテンを、選手だけでなく、メディカルスタッフ、マネージャー、広報といったスタッフも含めた投票で決めていらっしゃいます。いわば、「ゼルビア総選挙」(笑)。そんな選考方法にも、黒田さんが考える“リーダーのあるべき姿”が投影されている気がするんですが。
黒田 そうですね。私は約30年の教師経験があり高校サッカーの指導者でしたから、(従来とはまったく違う)こんな方法が普通だったのかもしれません。FC町田ゼルビアの選手たちを知る上で一番いいのは、選手たちの声を聴くこと。それで、選手だけでなく。メディカルスタッフとか広報とかマネージャーといった、日頃、選手たちと近くで接している人たちも含めて、キャプテン候補を挙げてもらいました。昨年は奥山政幸が、今年は、昌子源が務めてくれています。
太田 誰が投票したかわからないように無記名で、キャプテンひとりと、副キャプテンふたりの名前といっしょに、投票した理由を書くという方式でしたね。無記名だから、忖度がまったくない(笑)。
黒田 キャンプ最終日に、みんなが「今年一年、自分の人生をかけ、ついていきたいと思えるキャプテンは誰か」と、本音で投票してくれたと思います。
いざ投票してみると、5年、10年と長くこのクラブにいるのに、名前が挙がらない人が出てきます。本来なら、このチームに一番長くいる人がキャプテンにふさわしいと思われそうなものなのに、推薦されないのはなぜか。そこに、その選手がチーム内でどういった評価を受けているのか、みんながチームでどんなことを感じているのか、ふだん我々が直接聞きだせないようなことが、数字として明確に表れてきます。私はそこが見たかったのです。
“自分たちが選んだ”という気持ちが一体感を生む
太田 キャプテンを監督が指名するのではなく、選手やスタッフに投票で選ばせる。その意義はどんなところにあるのでしょう?
黒田 「自分たちで選んだキャプテンだからこそ、みんなで支えついていこう」と、チームが同じベクトルを向いて、一体感が生まれるところでしょうね。「自分は他の人が良かった」とか「監督が選んだキャプテンだから」といった、自分勝手な発想にならないという面でも、最適な方法だと思っています。
太田 僕自身、昨シーズンは副キャプテンに選んでいただきましたが、みんながどんな理由で自分を推薦してくれたのか、コメントを読んだことで、ものすごい責任感が生まれました。
(キャンプ中に)総選挙をやったあの夜が、チームが最初に結束した瞬間だったんじゃないかなと思います。
―――チームのキャプテンは、トップダウンで決定することが多い。ゆえに、監督の意向が強く反映され、ともすれば、キャプテンが傀儡的な存在になってしまう場合も少なくない。これは、会社という組織の人事においても言えることだろう。
かといって、ゼルビア総選挙のように“現場”の声を重視すると、監督としてはやりにくさが生じる危険性もある。けれど、黒田氏はそのリスクよりも、「自分たちが人生かけてついていきたいと思えるキャプテンを選び、一体感を高める」こと、そして、「キャプテンが、みんなから選ばれたという責任感をモチベーションに変え、チームを牽引する」を選択した。
著書の中で黒田氏は、「仲間と心を通わせ共に戦い、勝利のために有効な時間を共有し、人を大切に、そして選手の心に寄り添えるリーダーでありたい」と、綴っている。「ゼルビア総選挙」には、そんな想いが反映されている。