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2024.12.29

黒田剛「モチベーションを高く維持し続けなければ叶えられない目標を設定すべき」【町田快進撃の秘密④】

常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで太田宏介氏と対談した連載4回目は、「リーダーの目標設定」について。【連載をすべて読む】

黒田剛/Go Kuroda
1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。

「いつも不安でいたい」そんな自分がいる

太田 チームによって目標設定はいろいろだと思いますが、黒田さんの目標設定は、短期、中期、長期と、すごく細かいですよね。目標設定に向けて、黒田さん自身が大事にしていらっしゃることを教えていただけますか。

黒田 これも自分目線でなくて、選手たちだったらどう考えるかという目線で設定していかなければならないと思っています。高くなり過ぎず、低くなり過ぎず、ほどよいさじ加減でモチベーションをキープできるセンスというのが、すごく重要なのです。

最初から低い目標とか無難な目標を設定すると、選手自身が油断してしまったり、または、監督がちょっと油断してしまったりすると、選手は間違いなくそれを感じ取ります。

高くすることによって、自分自身は不安を感じるんですよね。プレッシャーも感じるし、日々重圧もありますし。でも、もしかしたら、その不安を毎日感じていたいのかもしれませんね。

すべてに満たされていて、常におなかいっぱいの状況はつくりたくなくて、あえて「不安でいたい」そんな状態をつくりたくて、好んで(高い目標を)設定しているという感覚はあると思います。周囲から「難しいだろう」と感じてもらえた方が間違いなくモチベーションは上がりますね。

ゼルビアの監督一年目にJ2優勝を掲げましたが、周りからは「そんなの無理だ」と、散々言われました。だからこそ、2024年はJ2残留とか降格という争いではなく、上位に居続けることに意味があると考えましたし、選手たちにもその感覚を持たせることが大切だと思っていました。また今年は海外でのプレー経験がある選手や、日本代表でプレーした選手たちが加入したので、その選手たちのためにも、低い目標設定ではなく、あわよくば最後まで優勝争いしてやるという気概を持って、目標設定を高くしたところはありますね。

言うなれば、モチベーションを高く維持し続けなければ叶えられない目標設定です。目標なんていつでも変えられるのだから、最初は5~10位以内、次は5位以内、で、ここまできたら優勝と、選手も我々も不安を感じながら日常を過ごせるような目標設定をすればいいんじゃないかなと思っています。

太田宏介/Kosuke Ota
1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサダーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。

1位を目指さなければ1位にはなれない

太田 黒田さんは去年、(J2リーグ、全20チーム参加で38試合中)勝ち点90、失点30以内という数字を目標として、開幕前、指導の初日から、選手たちに落とし込んでくれました。その数字を目標に設定にした意図は、どんなところにあったのでしょう?

黒田 ゼルビアの2022年のデータを見ると、失点が50だったんですね。非常に言葉が悪いですが、これはあまりにも杜撰というか、なぜこんなにも失点が多かったのかと。それを反省材料として、まず選手たちに自覚してほしかったというのはあります。

攻守はいつも表裏一体ですから、良い守備ができれば必ず良い攻撃に結びつく。攻撃に関しては偶然的要素はありますが、失点に関しては、偶然性は少なくて、必ず自分たちに問題があるわけです。それをきちんと追求することが大事だというのがまずひとつ。

もうひとつは、その前年、アルビレックス新潟がJ2優勝した時の数字を超えたいというのがありました。J2からJ1への昇格は、2位以上であれば達成できるんですが、自分の中では2位以上というのも引っかかっていました。1位を目指さなければ、2位以上はキープできないなって。自信があったわけでもないし、なんの根拠もなかったけれど、まず選手みんなを本気にさせることが、我々(首脳陣)のミッションのひとつでしたからね。ちょっと背伸びしてでも、目標は高く設定すべきだと思っていました。

黒田剛という青森山田で30年間やっていた監督とはいえ、プロ経験のない監督を招聘したというのは、おそらくみんな不安がっていただろうし、多くの反対もあったと聞いていました。その人たちを納得させたかったし安心させたかった。だからこそ、チームが一致団結するには、中途半端な目標では足りなかったというのはあります。

太田 僕がすごく印象的だったのは、黒田さんは、ふだんのミーティングでもコミュニケーションの中でも、チームの目標としてJ1昇格と言う言葉は絶対に使わなかったこと。必ずJ2優勝と言っていました。J1昇格は、J2で2位でも3位でもいけるじゃないですか(注:上位3チームがJ1昇格、3~6位はプレーオフに進出し、優勝したチームがJ1に昇格する)でも、J2の中で優勝するという言葉は、選手たちにものすごく響いた気がします。実際、目標に掲げた数字にほぼ近いところまで上り詰め、J1昇格を果たしました。有言実行する黒田さんの力はすごいと、改めて感じています。

※5回目に続く

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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