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2024.06.27

和田秀樹の医者ではなく、大先輩に聞け コレステロールが不足すると、認知症にも鬱病にもなりやすい【柴田博×和田秀樹⑤】

健康に長生きするには「コレステロールは下げる」のが常識。でも実はこれ、間違いなのです。実証研究に基づく対談は“目から鱗”の連続。日本人の生活を根本から変えてしまうかも。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。今回の対談者は医学博士・柴田博氏。第5回。

柴田博/Hiroshi Shibata(左)
医学博士。1937年北海道生まれ。北海道大学医学部卒業。桜美林大学名誉教授。東京都健康長寿医療センター研究所名誉所員。老年学についての研究と教育を一貫して続けている。著書に『長寿の噓』『なにをどれだけ食べたらよいか。』など著書多数。

低栄養の怖さを知れ

和田 健康情報は多いのですがそれが真実とは限らない。偏るのもよくないですね。「○○が体にいい」と言うとそればかり食べる。でもそんな単純ではありません。

柴田 栄養は食品全体から摂りますからね。

和田 僕は精神科なので、セロトニンは増やさないと鬱になりやすいという話をする。するとよく患者さんから「大豆がいいんですか、植物性がいいんですか」と質問される。植物性タンパク質は確かに体にいい。でもコレステロールが欠けているんです。コレステロールが高い人は鬱病になりにくいし、なったとしても治りやすい。

柴田 認知症もそうですね。

和田 つまりセロトニンを増やすだけじゃなくて、コレステロールも増やす。じゃないとセロトニンが脳まで運ばれない。

柴田 コレステロールは細胞膜を作りますからね。タンパク質とリン脂質とコレステロールで作られる。コレステロールが不足すると細胞膜が弱くなるから、がんにもやられるし、感染症にもやられてしまう。

和田 コレステロールは神経の鞘の部分の材料でもある。

柴田 そう。コレステロールは体全体で160~180gあるんだけど、3割が脳のほうにあり、神経系まで入れると7割くらいです。だからコレステロールが不足すると、認知症にもなるし鬱病にもなりやすいんです。

和田 もう一つ、免疫細胞の材料でもある。不足したらろくなことはありませんよ。僕が学生の頃は「コレステロールの低い人が低栄養だ」って習ったんですけどね。

柴田 教える先生によります。今は低いほどいいって教わる人が多いと思います。

和田 人間も動物だから、低栄養でいいわけがないことは、少し考えればわかる。低栄養がいかに怖いかを、もっと知るべきです。

柴田 知らなすぎるのね。

和田 その結果が、今回のサプリの被害ですよ。

柴田 あの会社だけじゃなくてね。コレステロールを下げていること自体が、すでに害をもたらしているっていう可能性は高いんですよ。

和田秀樹/Hideki Wada(右)
精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て現職。30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。

病気を減らすという点では、薬よりも栄養のほうが効果はある

柴田 僕はね、医者の立場と栄養学の立場と、両方でやってきたんですけど。1980年より前、栄養学者たちが食品の機能に注目し“機能性食品”を開発し始めたんです。東大名誉教授の藤巻先生が中心になって。これに医学者たちが猛反対したんです。「機能を持っているのは薬だけだ」ってね。

和田 いかにもな話ですね。

柴田 そこで「機能性食品」ではなく「特定保健用食品」という言葉に置き換えた。でもそれが認められるには、厳密な審査でした。

和田 いわゆる特ホですね。

柴田 1991年に厳しい審査をクリアして市場に出ました。ところがそれが一変したんです。

和田 機能性表示食品ですね。

柴田 そうです。2015年、会社の責任において「こういう機能がある」と言えることになった。

和田 日本の食品経済を上げるのだと、アベノミクスの一環として登場してきた政策です。

柴田 あれだけ議論を重ね、機能も精査していたのに、それが一気に吹き飛んで、勝手に機能を表示していいことになった。

和田 何のチェックもなし。

柴田 そのぐらいね、日本の行政ってインチキなの。

和田 薬の問題も国民全体が考えたほうがいいですね。例えば、病気を減らすという点では薬よりも栄養のほうが効果はあると言えます。心筋梗塞を3割減らした薬はないけど、食事を変えるだけで4分の1に減るわけですから。

柴田 医療だけで健康にはなれませんからね。

和田 お金で考えるとわかりやすい。毎月給料からすごい金額の保険料を引かれますが、それは薬剤費が高過ぎるからです。日本全体で7兆円とか9兆円。7000万人の社員がいたら一人当たり年間10~13万円の薬剤費を使われていることになる。薬が半分に減ったら、年間5~6万円の手取りが増える計算になるんですよ。

柴田 薬を減らして栄養をよくすればいいんだけどね。

和田 柴田先生はそのために何十年も闘ってきました。

柴田 そうなんですよね。

和田 本来なら、柴田先生のような人がどこかの教授になって老年医学のリーダーになるべきなんだけど。残念なことに現状は、老人なんて診たことがない人が老年科の教授になっていたりします。だから老年医学が発展していかないんですよ。

柴田 医学部は日本で80以上あって、その中の20ぐらいまで老年医学が広まったんだけど。今はどんどん減って10に近いんじゃないかな。

和田 老年科を作っても役に立たないから減るんですよ。薬を減らすとか、栄養指導や運動指導をするなど、実態に見合った医療をすれば役に立つんですけど、薬ばかり出すから。

柴田 例えばアメリカは老年医学という講座はなく、複数の科がプロジェクトを組んで診ています。イギリスは家庭医学の範疇です。

和田 日本はこれだけ認知症の人が多いのに、精神科の人も入ってこないし、高齢者の鬱病を診る人も少ない。

柴田 栄養学も統計学も無視。

和田 若いうちは1つの科だけの受診で済むから薬も2、3種類ですが、高齢になると複数の科にかかるから10種類の薬を飲んだりします。年を取るほど悪影響を受けるわけですよ。

柴田 老年医学でも地域医療でうまくやってる長野県みたいな例もあるんですけどね。

和田 うまく行ってる人から学ぼうっていう姿勢がないのが一番の問題だと思います。

※第6回に続く

TEXT=山城稔

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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