健康に長生きするには「コレステロールは下げる」のが常識。でも実はこれ、間違いなのです。実証研究に基づく対談は“目から鱗”の連続。日本人の生活を根本から変えてしまうかも。『80歳の壁』著者・和田秀樹が“長生きの真意”に迫る連載。今回の対談者は医学博士・柴田博氏。第3回。
痩せ願望は危険!
和田 日本は高齢化率が上がっているのに健康常識はそのまま。この状況を変えなきゃいけないと僕は思っています。
柴田 本当にそうですね。
和田 高齢者だけじゃなく、若い人の意識も変える必要がある。僕の知り合いに「日本一の不妊治療の名医」と言われる人がいて、北九州の病院に全国から人が訪れる。その医師が「不妊治療に来る人の9割は若い頃にダイエットをしていた人だ」と言っています。
柴田 子宮が育たないんです。
和田 そうです。ダイエットは危険なんですよ。
柴田 痩せる必要がないのに痩せようとしている。
和田 先日も朝の情報番組で女性アスリートの生理の話をしていました。摂取カロリーより運動の消費量のほうが高くなると痩せてくる。そのうちに生理が来なくなるんですが「そうなったらアスリートとして一人前だ」と評価されていたらしい。そんなおかしな理論がまかり通っていたんですよ。
柴田 若い頃から痩せるのは危険と言えます。
和田 脳についても、低栄養がよくないことはわかっています。朝食を抜く子は成績が悪いとか、食べる品目が少ない子ほど成績が悪いことは、データからも明らかです。でもこれは当たり前の話なんですよ。だって栄養は人間が生きる源なんですから。高齢者も若い人も、それは同じことです。
柴田 それなのに、痩せるのがいいと思い込んでいる。
日本、韓国…痩せることを煽っている国は、少子化に苦しんでいる
和田 おそらく世界的に見ても日本と韓国だけですよ。痩せるほうを煽っている国は。その結果、日本と韓国は少子化に苦しんでいるわけです。
柴田 僕も子どもの問題では過去に大議論をやりました。「小児肥満が増えてる」と問題になった時です。実際は体重が多い児童と少ない児童に2極分解していて、僕の計算では“痩せ”のほうが増えてました。それなのに「肥満が増えていて大変だ」と宣伝されてしまいました。
和田 はい、そうです。
柴田 1990年代には、「2500g未満の低体重児は、将来、様々な成人病になりやすい」という研究報告が出されています。なのに日本は、妊婦の体重制限を始めてしまった。
和田 よせばいいのに。
柴田 1980年代は日本の栄養状態が少し改善して2000kcalを超えていたんです。その時には低体重児の割合は5%もいなかったのですが、今では10%になった。倍増しているんです。
和田 これはかなりやばい。
柴田 20世紀を境にカロリーが減った国は世界でも2つしかない。日本と北朝鮮だけです。先進国もアフリカも横ばいです。日本はそのぐらいいい加減なことをしてるんです。
和田 日本の平均寿命もこれからは危ないですね。
柴田 そうですね。若い人が今すぐに死ぬことはないけど、将来的に日本は「長寿の国」と言えなくなるかもしれません。
元気な高齢者は栄養がいい
和田 僕は高齢者を診ていますが、元気な人は栄養状態がいい人なんですよ。
柴田 そうですね。
和田 長生きするなら元気でいたいですよね。柴田先生がまさにそうですが、頭が冴えているから仕事もバリバリできるし、何をしても面白い。
柴田 やはり活力の基は栄養ですよ。
和田 森鴎外の時に反省すればよかったのに、日本の医学界は逆に意固地になり、いわゆる”栄養学”を軽視しました。ビタミンB1の歴史を見ても、鈴木梅太郎が見つけた抗脚気因子を医学会は長い間認めなかった。
柴田 医者は治療だけをすればいいと思ってますからね。
和田 国民皆保険になって、どんな病気をしても薬は出す、検査データを見て異常値を正す、ということにはなったけど、本当は病気になる前に、患者さんを元気にしなきゃ。コロナの時なんてひどいもんですよ。高齢者を家に閉じ籠もらせ、弱らせてしまった。
柴田 そうそう。
和田 運動しないし、動かないと食べなくなるから、フレイルみたいな高齢者がすごく増えてしまいました。
柴田 「人と会うな」とは言うけど、大事なことを言わない。
和田 「ちゃんと栄養を摂ってくださいね」とか「外に出られないなら、せめて家の中では運動してくださいね」と、誰も言いませんでした。高齢者は注意して、と言う割には、高齢者を全然見ていない。
柴田 全く見てない。年を取ると健診も受けなくなるんだけど、そもそもデータがあっても無視ですよ。2001年に「コレステロール値を一定以下にすると死亡率が上がる」というデータが雑誌に出たことがありました。「総コレステロール220㎎以上でシンバスタチンという低下薬を投与された5241人を6年間追跡した」という極めて重要な調査です。『日経メディカル』というメジャーな健康雑誌に載ったのに、誰もこれを引用しない。みんな無視ですからね。
和田 人命より利益優先。
柴田 コマーシャリズムですよ。警戒しないといけませんね。
※第4回に続く