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2023.09.05

十八代目中村勘三郎・伝説のNY公演舞台裏【まとめ】

十八代目中村勘三郎——現代を生きる歌舞伎役者の新たなる挑戦の舞台裏を、長きにわたり勘三郎を追い続けたノンフィクション作家・小松成美がルポした、ゲーテ伝説の企画をまとめてお届け! ※GOETHE2007年10月号掲載記事を再編した、2023年8月掲載記事を再編。掲載されている情報等は雑誌発売当時の内容。 【特集 レジェンドたちの仕事術】

中村勘三郎まとめ

1. 【十八代目中村勘三郎】2007年、ニューヨークを席巻した伝説の舞台の記録

2007年7月18日。その朝、ニューヨーク・マンハッタンは厚い雲に覆われ、空が落ちるかと思うほどの激しい雨に見舞われていた。十八代目中村勘三郎は、宿泊していたホテルの窓から見える閃光に驚き、ベッドから飛び起きた。

「カーテンの隙間から稲光が見えた。窓に駆け寄り、カーテンを開けると部屋全体がフラッシュを浴びたように明るくなって、雷鳴が響いたんだよ」

それはまるで、いま上演している芝居の一場面だった。

「芝居では雷が轟くと天を見上げてこう叫ぶ。This is a good sign!(いい兆候だぞ)He is only my true friend!(こいつだけが俺の本当の仲間だ)って。稲光を受けながら、思わずその場で英語の台詞を言っていた」

天気が回復したその日の昼、20年以上もニューヨークに住む知人から「早朝の雷など見たことがない」と聞かされ、勘三郎は心の高ぶりを抑えられなかった。

「あのとき、どんな結末になろうとやるしかないんだ、と思ったよ。ニューヨークで芝居の幕を上げたことの覚悟を改めて自分に言い聞かせてね」

それまで胸につかえていた不安や焦りが体の外に押し出されたような気がしたのだった。このとき勘三郎は、今回のニューヨーク公演が目の肥えた観衆から絶賛されるばかりか、辛辣な演劇批評家から俳優として決定的な評価を受けることを、まだ知らなかった——。

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2. 米メディアが絶賛した「平成中村座」。英語で歌舞伎を演じた十八代目中村勘三郎の胸中

翌17日の昼にリハーサルを行い、夜にはいよいよ本番。その公演を終え、楽屋に戻った勘三郎の表情は冴えない。

「実際、英語で台詞を言っても日本でのようには大きな笑いが起こらない。ほぼ席は埋まっていたけど、超満員じゃなかったしね。英語はきちんと伝わっているのか、難解なストーリーが理解されているのか、頼りない気持ちになるんだよ」

勘三郎は自ら進んで乗り越えようとしている壁が、これまでと比べものにならないほど高いことを実感していた。

「ニューヨークで歌舞伎役者と名乗りたいなら『連獅子』を舞えばいい。あの演目は、歌舞伎役者にしかできないから。デ・ニーロだって、アル・パチーノだってできない。でも、『法界坊』は台詞と演出を覚えれば彼らにも演じられる。つまり、僕はブロードウェイやハリウッドの俳優と同じ土俵に上がってしまったんだ」

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3. アメリカ演劇界の重鎮は十八代目中村勘三郎をどう見たのか?【伝説のNY公演舞台裏】

3年振り(前回のニューヨーク公演時以来)に再会したお二人にたっぷりとお芝居の話をしていただきます。まず、なぜ勘三郎さんは、海外公演の場所をニューヨークに決めたのですか。

勘三郎 今から28年ほど前、24歳だった僕は亡き親父と、ビーコン・シアターで『連獅子』を舞ったんです。そのときのニューヨークのお客さんは、皆さん前のめりになって観てくれたんですよ。椅子の背から背中を離している。そのほかの都市も回ったんだけど、劇場にいて舞台を観る姿勢がまったく違っていた。だから、「勝負するなら、ニューヨークだ!」と決めていました。

——そのときに素晴らしい出会いがあったとか。

勘三郎 当時のアクターズ・スタジオの校長先生であるリー・ストラスバーグの家に招待してもらったの。そこでロバート・デ・ニーロと、ピーター・セラーズ、アル・パチーノに会ったんです。デ・ニーロが僕に「今、日本でどんな映画が流行ってる?」と話しかけてきて。それで僕は「『ロッキー』が大ヒットしています。面白かったですよ」と答えたら、彼、真剣に怒っちゃった。それでね、自分を指さしながら「俺の『レイジング・ブル』を観てくれよ!」って力説するわけ。

——真剣に怒っていた?

勘三郎 そうなんだよ。その時に僕は思ったのね。まだ、若造の僕にハリウッドスターが真剣に向き合ってくれている。その姿に感動して、格好いいなと思った。

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4. 十八代目中村勘三郎、伝説のNY公演後に語った歌舞伎への想い「定番になんか胡座はかけない」

——リプトンさんに伺いたいのですが、勘三郎さん演じる法界坊の他、印象に残った場面、キャラクターはありますか。

リプトン いくつかありますよ。まず刀を打ち交わす立廻り。激しい戦いなのに、それがとてもシンプルですよね。

勘三郎 簡素な動きにして、逆に敵愾心や闘争心を色濃く表現していくんです。

リプトン 見得もそうしたものでしょうか。連続した動きの中で、ある瞬間にポーズを決める。あれは感情のピークを示しているものでしょう?

勘三郎 そう、クローズアップですね。

リプトン 静止するあの間が素晴らしい。見得のときに役者がやる目のクロス。あんなふうに目を寄せられなかったら、歌舞伎役者は務まらないですか?

勘三郎 ハハハ、ずっとやっているとできるようになりますよ。

リプトン 足や手が刀で切られて宙を舞うシーンも面白かった。黒子さんが切られた足や手を操っているんですが、とてもミステリアスでした。

勘三郎 あの演出は江戸時代のものじゃありません。僕たちが考えたんですよ。

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5. 十八代目中村勘三郎の意外な素顔!数々のスターが名答を残した10の質間に挑戦【伝説のNY公演舞台裏】

リプトン 私がこの胸ポケットに用意しているものが分かりますか。(取り出して)ほら、このプルー・ペイパー。毎回ゲストにしている恒例の「10の質問」ですが、受けていただけますか。

勘三郎 えっー! あの質問ですか。

リプトン そうです。この質問には心理学的な要素があります。この質問の答えで、あなたがどんな人であり、どんな人生を歩んできたか分かるでしょう。

勘三郎 分かりました。お受けします。

リプトン 好きな言葉は?

勘三郎 好きな言葉は、信じる。

リプトン 嫌いな言業は?

勘三郎 そうだな、つまらない。

リプトン 何に興奮しますか? 何にスリルを感じ、何にかきたてられるか?

勘三郎 芝居ですね。

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TEXT=小松成美

PHOTOGRAPH=マーク東野

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