人生を取り憑かれた、熱狂的コレクターの偏食ぶりを拝見。まずは午前零時、神楽坂のとあるレストランの個室では、スニーカーをおかずに夜ごもり。熱々な“快食”が始まっていた。
歌舞伎界で密かに傾く、スニーカーブーム
とある平日の夜深く。場所は、スニーカーヘッズたちの間で一目置かれる神楽坂のステーキハウスだ。店主が収集したお宝が陳列された個室があるのがその理由。ここに、歌舞伎界きってのスニーカー好きのふたりが揃った。
恥ずかしながらまだ新人コレクター
松也 歌舞伎界では今、スニーカーが人気だよね。僕と虎がその中心。というか、虎はもっと前からスニーカー大好き人間だった。
虎之介 もともと好きだったから、松也さんが昨年ハマったのをきっかけに、気づけば僕も巻きこまれてしまいました。
松也 恥ずかしながら昨年デビューのド新人です(笑)。僕は今、虎のことを「師匠」と呼ばせていただいてます。というのも、ハマるまではまったく詳しくなく……。虎とは、ある公演で楽屋が一緒になり、偶然スニーカー談義で意気投合。そこに、(中村)七之助さんをはじめ何人も誘いこんで。
虎之介 (中村)仲四郎さんや(中村)鶴松くんも加えて……。
松也 ふたりで歌舞伎界にスニーカー勢力を拡大していますよね、師匠(笑)。ちょうど昨年の自粛期間中に、家でマイケル・ジョーダンのドキュメンタリー『ラストダンス』を見たのがきっかけ。僕ら世代にとってジョーダンといえば、ヒーローですから。それでグッと熱くなって。流れで漫画『スラムダンク』を読み返しているうちに、やっぱりスニーカーっていいなと。せめて「エア ジョーダン」を1足くらい、と買ってしまったのが、運の尽きと言いましょうか。
虎之介 スニーカーから遠かったぶん、爆発しましたね。ここまで急激に変わる人もなかなかいないですよ。普通はわりと選別しますけど、松也さんは、欲しいのを我慢できない。
松也 そう(笑)。虎は、いわゆるスニーカーブーム世代ではないよね。どうして好きなの?
虎之介 ジャスティン・ビーバーがライブで履いていたスープラが、めちゃくちゃカッコよかったのが最初。それに、高校時代はAPE、大学でUNION、今はNIGO®さんが率いるHUMAN MADEというブランドで働いているので、ファレル・ウィリアムスとのコラボなど、カルチャー的な要素にも惹かれました。
松也 わかる!それと“師匠”には、いつも着こなしについても指導していただいてます。今年はスニーカーにハマって初めての夏を迎えたので、「アレっ、俺が持っているハイカットは、どう履きこなしたらいい?」って。
虎之介 夏はローカットが基本ですねって言ったら、松也さんは突如、ローカットも集め始めましたからね(笑)。
松也 SBダンクのP-rodモデルとか、トラヴィス・スコットとフラグメントがコラボしたエア ジョーダン1とか。師匠が夏のソックスは白一択って言うものですから、言うとおりに揃えるのは大変。会うたびにあれこれ教えてくれるので、お金がかかってしょうがない。
虎之介 優秀な教え子です(笑)。
購入の決め手はカッコいいか否か
松也 選ぶ時は何を見てる?
虎之介 第一印象とパッションがあるかです。
松也 同じ。でも、大体プレ値がついて高くなっている、欲しいものほど。
虎之介 いいモデルほど、プロモーションも巧みなので、いっそう欲しくなりますよね。
松也 どうしても欲しいふた桁万円モデルと対面した時は、さすがに無理と思ったけど、憧れの1足だったので、これでひと区切りしようって。その壁も崩壊させてしまい……。そうなるともうダメ。
虎之介 実は、終わりの始まりだったというスニーカー沼(笑)。ところで松也さんはインターネットで買うことも多いですか?
松也 もちろんあるけど、結局はお店で買うよね。ショップにとにかく赴くこと。意外な出会いや発見も多いから。
虎之介 定価やセールなど、安く掘りだし物を見つけられたりするのが楽しい。かつてはインターネットの抽選もなくて、僕もよく朝6時とかから行列に並びました。そういう苦労の先に、お目当ての品を手に入れるのが嬉しいですよね。
松也 やはり情報は足で稼がないと。ですよね、師匠。
スニーカーと歌舞伎!?意外なふたつの共通点
松也 たかがスニーカー、されどスニーカー。知れば知るほど惹かれる。
虎之介 それは歌舞伎も同じで、どちらも精神が受け継がれてきた世界。
松也 歌舞伎は長い時間をかけて受け継がれてきたストーリーや伝統がある一方、歴史こそ浅いけど、スニーカーにも深い話があるよね。かつてマイケル・ジョーダンが、NBAで禁止されていたブレッド(黒×赤)のバッシュを、罰金を払ってでも履いてプレイした話とか。物語がある。意識しているわけではないのですが歌舞伎俳優とスニーカーという組み合わせもカッコいいなと。自分は別にしても、今日のお稽古で(市川)猿之助さんが、ダンクのミシガンを汚して履いていらしたのは、カッコよかった。
虎之介 おお、粋ですね。父(中村扇雀)も私の影響で60代からスニーカーにハマって、先日スーツにYEEZYを合わせていましたから。
松也 そうそう、カッコいい先輩方がいらして、真似をしたいと思う。誰に何を言われようと、ここまでハマれる楽しみに出会えてよかったなと。
虎之介 ただ、嵩張(かさば)るんですよ。
松也 足はふたつしかないのに。もう部屋が足りないよ(笑)。
Nike SB Dunk Low “What The P-rod” (右上)
左右ネガティブがお洒落なローカット。「七之助くんと虎と僕、3人お揃いで買いました」
Nike Air Jordan XX9 (右下)
通称「フォトリール」と呼ばれる名品。「ふた桁万円を超えて入手した記念すべきモデル」
Nike Air Pippen 1 Kith (左上)
KITHのロニー・ファイグが手がけた1足。「ジョーダン買ったらピッペンも必要ですよね」
Nike Air Jordan 1 (左中央)
ジョーダンの息子が経営する「トロフィールーム」限定。「師匠と訪れた長野の店で一目惚れ」
Nike Air Jordan 5 Retro Fire Red (左下)
「スラダンブームが再燃して購入した流川楓モデル。めちゃくちゃカッコいいなとぞっこん」
Nike Air Jordan 1 J Balvin (足元)
コロンビア出身のラテン系シンガーとのコラボ。「ピンクソールにニコちゃんが最高! 」
Matsuya Onoe
1985年東京都生まれ。’90年2 代目尾上松也を名乗り初舞台。近年は、歌舞伎以外の公演にも積極的に参加。現在スニーカーは100足超え、棚を設えた専用部屋をつくったばかり。
Nike Air Jordan 1 Low Travis Scott Fragment (右上)
世界的ラッパーと藤原ヒロシによるコラボ。「ジョーダンのなかで一番興奮したモデル」
Adidas Solar HU F&F Human Made (中央上)
ヒューマンメイドとのコラボスニーカー。「ファレルの奥さんが履いていた激レア」
Adidas Consortium Country F&F Human Made (中央下)
名作カントリーにブーストソールを装着。「非売品だと思います。軽くてカッコいいですね」
Adidas Tokio Solar Human Made (左)
ブーストソールを装着した東京オリンピックモデルをアレンジ。「白は合わせやすいんです」
Nike Air Jordan 1 Retro Hi NRG/UN (足元)
「このレトロカラーの組み合わせが秀逸。松也さんとのコーディネイトに合わせてみました」
Toranosuke Nakamura
1998年東京都生まれ。父は3 代目中村扇雀。’06年に中村虎之介を名乗り、初舞台を果たす。ファッションディレクターのNIGO®氏との親交も深く、そのブランド広告にも出演。
カウマン ステーキ クラブ ザ ルーム
住所:東京都新宿区神楽坂6-67-1
TEL:03-6265-0466
営業時間:17:00~23:00(L.O.22:00)
休業日:月曜(祝日の場合は翌平日)
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