カジノやF1、豪華クルーザーのイメージから富裕層向けの観光立国の印象が強いモナコ。実は今、世界の最先端を行くサステナブルリゾートへと大きく変貌している。そんなモナコの魅力探るべく、編集部取材班が現地を訪れた。今回はモナコ住民も訪れる日本人シェフのレストラン「ロランジュリー」について。
モナコでもニースでもなく、マントンを選んだ理由
モナコの中心部から東へ、車で約30分。モナコとイタリアの中間にある、マントンはフランスで最も温暖な街だ。特産品は皮が厚く、糖度が高いことで知られるマントンレモン。年に一度のレモン祭りでは、多くの観光客で街が賑わう。
そんなマントンの中心広場に、モナコをはじめ、近隣のホテルからゲストが訪れる一軒のフランス料理店がある。それが「ロランジュリー」だ。
腕を振るうのは、間下充康シェフ。わずか8歳で母親のためにケーキを焼くなど、幼い頃から料理に親しみ、大学では経営学を学びながら、レストランで働いて料理を学んだ。
必要単位をすべて取得したのち、卒業を待つことなく4年の夏休みに渡仏。パリ郊外のレストランで1年半ほど経験を積み、帰国後は日本のレストランでも修業。その後再び海を渡り、ホテル「ホテル・マルチネス」、モナコの隣町ともいえる小さな村ラ・チュルビの2つ星レストラン「オステルリー・ジェローム」で14年半ほど働いた。
間下シェフは南フランスの気候風土に惚れ込み、南仏料理でやっていくのなら南フランスで開業するのがベストだと決意。物価も地価も高いモナコや知り合いの店が多いニースを避け、フランス最南東部にあるマントンを選んだ。
車で15分も走ればイタリアのベンティミーリアに行け、市場では安価で質のよい食材調達ができる。ここでビブグルマンが取れるような店を出そうと考えたのだ。
「開店前のマーケティングにおいて、マントンには競合が見当たらなかったので、時間が経てば店が流行ることは確信していました。しかしながら経営の実績がないことから銀行や融資してくれる商工会議所に説明するのが難しかったです」と間下シェフは話す。
そして2023年7月、ついに「ロランジュリー」をオープン。しかしコロナ直後というタイミングもあり、最初は集客に苦労した。フロアのサービスを切り盛りする妻の友美子さんは「閑散期は極力人員を抑えて乗り切り、少しずつ口コミによる地元客を増やしていきました」と言う。
とにかく料理には時間と手をかける。間下シェフ曰く「隠れコンセプトは昭和の親父フレンチなんです（笑）」。その結果、まもなく1年を迎える今シーズンは、観光客も訪れるようになり、連日満席が続いている。
「近隣ホテルからの信頼も得て、ホテルからたくさんのお客さんを紹介していただけるようになったのもありがたいですね」
軌道に乗った「ロランジュリー」が、この先に目指すのはゲストがより心地よく過ごせる空間をつくること。
「店と会社の体力がついてきたので、従業員を増やしてさらなるサービスと料理の質の向上を目指していきます。設備投資はすでに始めていますが、さらに心地よく滞在していただける空間をつくりたいですね。残念ながら円安の影響もあり、日本人観光客は少ないのですが、腕一本で渡仏し、コツコツ積み上げてきたものを爆発させていきたい。ぜひたくさんの日本人の方々にも『ロランジュリー』の料理で楽しんでいただきたいです」
L’Orangerie／ロランジュリー
住所： 3 rue de la Marne 06500 Menton
TEL：+33-04-97-14-84-91
営業時間：12:00〜14:30、19:00〜21:30
定休日：日曜、月曜
