英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者のお話、第284回。
カタカナ英語と報道されていたけれど…
『SHOGUN 将軍』のエミー賞、ゴールデングローブ賞の席巻に、同じ日本人としてとても興奮して授賞式を見ていました。なかでも浅野忠信さんのゴールデングローブ賞助演俳優賞受賞のスピーチは、浅野さんの驚きと感動が素直に現れていて、スピーチを聞いた人にもそれがまっすぐ届いたようで、見ていて感動的でした。
しばらくすると日本のネットニュースでは「浅野忠信、カタカナ英語でも世界から絶賛」というような記事がたくさん出ていましたが、「そんなにカタカナ英語だったのかな? むしろすごく英語が上手だと思ったけどな?」と私は疑問に思いました。
通訳をつけず、あの場でパッと英語のスピーチができる、そしてそれがちゃんと伝わっているなんて、英語の練習と勉強を重ね、英語に充分に慣れた人でないとできないことです。
「彼の英語は充分でないという日本人が多いけど、どう思うか」
日本語ペラペラのアメリカ人に聞いてみたところこう言われました。
His English is not perfect. But it’s good enough. No cap!
「完璧ではないけど、充分だよ!」
ということ。「発音は確かに日本人なまりだけど、でも何を言っているかわかる。そもそもアメリカにはいろんななまりがあるしね。それにあのあとテレビでは2分間ほどの単独インタビューに答えていて、それにも浅野さんは通訳なしですらすら答えていたし、話も面白かった。確かに細かい文法ミスはあったけど、それで意味が通らないってことはなかったし、充分だよ」と、そのあとペラペラの日本語で説明してくれました。
“No cap!”ってどういう意味?
やっぱりネイティブでもそう思うのか、よかった。日本人は妙に日本人の英語に厳しいんだよな……と思い、安心したのも束の間、彼女の言った“His English is not perfect. But it’s good enough. No cap!”の最後の部分の“No cap!”の意味がよくわからないことに気がつきました。直訳すると「完璧ではないけど、充分だよ。キャップなし!」となりますが、全然意味が通りません。
素直に意味を聞いてみたところ、こういうことでした。
No cap=嘘じゃないよ
capがスラングで「嘘」という意味だそうで、そこにnoとかnotをつけて「嘘ではない」「本当だよ!」と、前に言ったことを強調する時に使うそうです。例もいくつか教えてくれました。
That’s food is good, no cap.(あそこのご飯美味しいよ、マジで)
I’m 20years old, no cap.(僕は20歳です、いや本当だって)
2番目の例は、ちょっと老けて見える人なので、「嘘じゃないよ」と付け足したのかもしれません。
「冗談抜きに」「本当に」「マジで」といったニュアンスで軽く使われているようです。
彼女も、「(浅野さんの英語は)もちろん完璧ではないけれど、充分だよ。嘘じゃなくて」と言っていたのでしょう。
そもそも本当にカタカナで発音してしまえば、“Thank you”ですら通じないはずです(イギリスの喫茶店で「アールグレイティー プリーズ」とカタカナ英語で言ったら全く通じなかったことがあります。メニューを指差しやっと注文できて「サンキュー」と言ったけれど、それすら「?」という顔で聞き返されたことがあります)。しっかりと発音練習をして通じる英語を身につけている人、その努力をしている人を完璧ではないからと言って笑うのはどうもなぁといつも思うのです。
私の人生においては、浅野さんのように華やかな場所で表彰され、スピーチをする機会はまずない気がしますが、それでもどこか小さいパーティくらいで、英語でさっと挨拶できるよう、日頃から努力しておきたいなと思った次第です。