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2024.04.23

マルチタスクが集中力を劣化させる! 資料作成しながら、メール返信、スマホ、TV…【余命10年・岸博幸】

2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』の一部を再編集してお届けする。第6回。#1#2#3#4#5#6 

iPadを操作する子供
Unsplash/Robo Wunderkind ※写真はイメージ

ここ20年で、集中力はますます劣化しつつある

集中力は、子供どころか大人も、今の時代はすごく低下している。

そもそも人間の脳は、元来注意散漫である。DNAの記憶の大半は石器時代のものだといわれているが、当時は、注意散漫であることが、生存に不可欠なものだったから。

諸説あるが一説には、人間が集中できるようになったのは、600年ほど前。

グーテンベルクが印刷技術を発明し、大量の本が世に出回るようになり、本を集中して読むという、それまでとは異なる行為を繰り返すうちに、集中力が養われたといわれている。

もっとも、脳内で分泌されるドーパミンは常に新しい刺激を求めるため、ひとつのものに集中するのは難しい。それに加え、ここ20年で、集中力はますます劣化しつつある。主な原因は、デジタルの普及によるマルチタスクの常習化だ。

パソコンで仕事をしている時のことを思い浮かべてほしい。

Wordで文書を作成しながら、ネットで検索し、メールが来ればそれを開く。マルチタスクが当たり前になった代償で、ひとつのことに集中して作業できなくなっている。

ちなみに、アメリカの心理学者の実験によると、アメリカ人は仕事中に1日平均74回もメールをチェックしていた(最大は435回)。

また、マルチタスクのために一時中断した作業に戻り、再び集中するまでに23分15秒もかかっていたそうだ。これでは仕事に集中できるはずがないだろう。

脳が無意識のうちにスマホを欲し、知的能力が低下する

スマホは、さらに曲者(くせもの)だ。

魅力たっぷりのサイトやソーシャルメディアが山ほどあるので、人はスマホの画面をどんどん短時間で変えて新しいコンテンツを楽しむ。

それをプライベートの時間にずっとやっていれば、集中力は極度に低下する。

これでは、テキストの読み方も流し読みになってしまい、自分の頭を働かせ、深く考えながら読むという作業は難しいだろう。

ここで、2017年にテキサス大学のエイドリアン・F・ワード助教授らが、学生を対象に行った調査結果を紹介しよう。

ワード助教授らは、学生たちを「机の上にスマホを裏返して置く」「スマホをポケットかカバンに入れる」「スマホを別の部屋に置く」という3つの集団に分けて、作動記憶(後述)を使う問題と流動性知能を使う問題のテストを実施。

すると、双方の問題について成績が最も良かったのが、「スマホを別の部屋に置く」集団で、一番悪かったのが「机の上にスマホを裏返して置く」集団だった。

いわば、人とスマホの距離が近づくほど、集中力が低下し、問題解決能力も低下してしまったことになる。もっとも、すべての学生がテスト中にスマホは気にならなかったと回答している。

つまり、脳が無意識のうちにスマホを欲してしまい、その結果、知的能力が低下したと考えられるのだ。なんとも恐ろしい結果ではないだろうか。

なんとなくテレビをつけているのも、立派なマルチタスク

集中力の低下を招くのは、スマホだけではない。

何かをしながら、なんとなくテレビをつけているのも、立派なマルチタスクの一種だ。なので、我が家は、大人も子供もテレビの“ながら見”は禁止。見たい番組があるのなら、その時はテレビに集中して見るのがルールだ。

要は“メリハリ”。スマホやパソコンにしても、「この時間は使ってもいいけれど、この時間は触らない」「目的もなく、だらだらと使用しない」などルールを設け、実践することが大切だ。

僕も8月に入院した際、ちょうど良い機会だからと思い、スマホと少し距離を置き、そのぶん本を読む時間を増やしてみた。1週間もすればだんだんと慣れてきて、頭もクリアになった気がする。おかげで、今後の自分の在り方をはじめ、いろいろなことを深く考えられた。1日に数時間、スマホを触らない時間を設ける。それだけでも、きっと得るものがある。

ネットやSNSがもたらす問題点

ネットやSNSには、もうひとつ大きな問題があることを実感した。

以前から気にかかってはいたものの、僕自身、入院中に好きなだけネットに触れる時間ができたことで、その怖さを再認識してしまった。それは、思考力や発想力の低下だ。

少し小難しい話になるが、まず、人間の認知行動について説明しておこう。

みなさんも思いあたるだろうが、人間は一日中文字を読み、音声を聞くなど、膨大な量の情報に浸っている。その際の認知行動は、「浅い読みと思考」と「深い読みと思考」の2種類に大別され、それぞれ脳の中で行われる作業が異なる。

前者は、いわゆる流し読みで、そこで目にした内容はすぐに忘れてしまう。

なぜなら、外から人間の脳に情報・知識がインプットされると、目や耳などの感覚器官を通じて、まず短期記憶に入るのだが、流し読みで得た情報は、この短期記憶の部位にしか保管されないからだ(短期記憶は、一度に3〜7個程度の情報を数十秒程度しか保持できない)。

対して、本や教科書などをじっくり読んで得た情報は、長期記憶に移される。

この長期記憶の部位には、それまでの人生で学んだ情報や知識が自分なりの理解で体系的に整理された“スキーマ(豊かな知識の体系)”が構築されていて、新しく入ってきた情報を結合し、自分なりに理解した上で、新たな考えを生み出すことをしている。

ちなみに短期記憶から長期記憶に情報や知識を移動させるのは、作動記憶という部位が担っている(作動記憶は、長期記憶から情報を持ち出し、意思決定・判断などの認知的作業も行っている)。

脳内の情報処理の仕組み

ただし、作動記憶は、短期記憶に入った情報や知識を、ゆっくりと、少量ずつしか長期記憶に運べない。

そのため、脳に入ってくる情報量が作動記憶の処理能力を超えてしまうと、大半の情報は長期記憶に運ばれず、短期記憶だけに留(とど)まってすぐに忘れてしまうので、スキーマもアップデートされず、思考や理解が浅くなってしまうのだ。

そう、これが、僕が入院中長時間ネットで情報収集しているわりには新しいアイディアや思考を生み出せなかった主な理由だ(もうひとつは、前述したようにデジタルでのマルチタスクによる集中力の欠如だ)。

いわば、情報のインプットではなく、情報の無為な消費と使い捨てをしていただけで、ある意味で、膨大な時間の無駄遣いをしていたのだ。

ネットの情報でも、熟読・熟考はできるのではないか? いやいや、アメリカの心理学者の実験で、パソコンやスマホなどの“画面”を通じてテキストを読むと、斜め読みになってしまうことが証明されている。

熟読・熟考するのなら、やはり紙の本をじっくり読んだ方がいいのだ。

僕のような中高年以上に、子供や若者はネットやSNSで情報収集する機会が多い。学校でもタブレット学習が導入されつつあるのだから、避けようがないことかもしれない。

だからこそ、せめて家ではネットやSNSに触れる機会を極力減らしたい。

そしてこれは、子供だけでなく、大人もぜひ心がけてもらいたい。僕のように、残りの人生が少ないのならなおさらだ。

少々乱暴な言い方だが、ネットやSNSは時間の浪費。そう心得て、家族みんなで読書タイムなど設けてみてはいかがだろうか。

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TEXT=岸博幸

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