2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』の一部を再編集してお届けする。第4回。#1/#2/#3/#5/#6 ※順次公開予定
ひとり当たりGDPはシンガポールの半分以下
何をもってハッピーだと感じるかは、人によって大きく違う。
収入が増えて豊かな暮らしができれば幸せな人もいれば、お金がなくてもプライベートな時間を充実させることに満足感を抱く人もいるだろう。人それぞれ、自分を幸せにする方法が明確ならば、それを実現すべく行動すればいい。
ただ、個人的には、若い世代には、経済的な豊かさと個人的な満足度の両方を貪欲に追求してもらいたいと思う。
ワークライフバランスという言葉が流行ったこともあってか、収入はそこそこでいいからプライベートを充実させたいと考える人も多いようだが、それは、誤解を恐れずに言うならば“低位安定”を目指すに等しいと思う。
意外と知られてないが、日本人は失われた30年の間にすごく貧乏になった。ひとり当たりGDPはシンガポールの半分以下。
また、所得税を納めている人全体のなかで、税率5%と10%が適用される課税所得330万円未満の人の割合はなんと80%を占めている。
これまではデフレでモノの値段が安かったから良かったけれど、これからはインフレでモノの値段も毎年上がっていくだろう。努力して収入を増やして生活水準を上げながら、ワークライフバランスも実現するという、世界で当たり前のことをやるしかない。
“FIRE”に必要な目標金額は?
現在は、少子高齢化の影響もあり、どんな地域でも、どんな産業でも、人手不足がますます深刻化し、職種によっては賃金も大幅に上昇している。
つまり、労働力として、引く手あまたの若い世代にとって、収入アップのチャンスが至る所に転がっているということ。
だからぜひ、このチャンスを活かし、自分が満足できる収入と待遇、できればやり甲斐もある仕事を目指してほしい。そして、経済的な豊かさと同時に、個人的な満足度も追求してほしいと願っている。
ついでに余計なことをひとつ言わせてほしい。
若い人の間で“FIRE”(Financial Independence, Retire Early、“経済的自立と早期リタイア”)という言葉が流行っているようだが、その目標金額が気になる。
識者のなかにも、「5000万円貯えれば可能」と言っている人もいるが、グローバルな視点からはその金額はショボすぎる。その程度の金額で、「残りの人生、経済的に安泰」なんて考えるのは、個人的には危険だと思う。
改めて、日本はずいぶん貧しい国になってしまったと、嘆かざるを得ない。