2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』の一部を再編集してお届けする。第2回。#1/#3/#4/#5/#6 ※順次公開予定
入院したことで気づいた“人のやさしさ”
自分がハッピーでいるために、残りの人生でやらなければいけないと考えていることのひとつに、他者への恩返しがある。というのも、多発性骨髄腫を患っていることを公表してから現在に至るまで、さまざまな場面で、改めて人のやさしさや温かさを実感してきたからだ。
2023年7月に病気をX(旧Twitter)で公表した時も、思いがけずネットニュースになり、世間に広まったことで、びっくりするくらい多くの知人からお見舞いや応援、励ましの連絡をいただいた。
どれも本当にありがたかったが、なかでも嬉しかったのは、番組での共演を機に仲良くなったアレク(モデルで俳優のアレクサンダー氏)からのメールだ。
「岸ちゃん、エッチなお店に行くぞ!」
この短い一文に、アレクのユーモアとやさしさが詰まっていて、吹き出しながらも胸がじんわりと熱くなった。「早く元気になって退院しろ」という、アレク流の励ましだったからだ。ちなみに、アレクとはまだエッチな店には行けていないが(笑)。
8月に退院してすぐに、『全力!脱力タイムズ』と『ミヤネ屋』に出演した時も、人のやさしさを痛感した。スタッフのみなさんが僕の復帰を心から喜んでくれ、思いがけず退院祝いまでいただいてしまったのだ。
尊敬する芸人・有田哲平、尊敬する司会者・宮根誠司
『全力!脱力タイムズ』のMCを務めているのは、くりぃむしちゅーの有田哲平さんだが、彼は、僕が最も尊敬する芸人さんでもある。
有田さんのお笑いに対するストイックさ、人に対するやさしさや温かさ、そして、テレビの常識に囚われず、おもしろければどんなネタでもぶち込んでくるイノベーター精神など、学ぶところがおおいにあるからだ。
その尊敬する有田さんに、入院前に挨拶に行ったところ、「復帰を待っているから頑張って」と、温かい言葉をかけてもらった。
人気番組だから出演したい評論家は山ほどいるし、他の人に代えられてもおかしくないのにもかかわらず、だ。この言葉が、入院中の大きな励みになったのは、言うまでもない。
『ミヤネ屋』のMC、宮根誠司さんは、僕が最も尊敬する司会者。
2時間の生放送で、細かい台本がないにもかかわらず、宮根さんはいつも楽しく番組をまわし、コメンテーターが変な発言をしても的確に対応する。
流れがシリアスになり過ぎると、突然お笑い要素をぶち込んで場の空気を変えるなど、一本調子になることなく、緩急を自在に使い分ける。その頭の回転の速さたるや、超人ものだ。
その宮根さんが、僕が8月中旬に退院したという情報がネットで広まった時、誰よりも先にお祝いのメールをくれた。送信時間から判断するに、明らかに『ミヤネ屋』本番中だった。宮根さんの細やかな気遣いは、本当に嬉しかった。
しかも、有田さんも宮根さんも、僕が番組に復帰したら、過剰な気遣いは一切なし。
それも、僕にとっては非常にありがたかった。逆に、ハゲを隠すためにキャップを被っていることや、入院していたことをイジって、笑いに変えてくれたくらいだ。
もしも、病人だからと特別扱いしたり、「余命10年だから」と腫れ物に触るように扱われたりしたら……。きっと僕は「復帰したのは迷惑だったかも」と思ってしまったかもしれない。