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2024.04.22

30年続いたデフレ→インフレに。知っておくべき、日本に起こっている5つの構造変化【余命10年・岸博幸】

2023年1月、多発性骨髄腫という血液のがんに罹患していることを知った岸博幸氏。余命10年を告げられた岸氏が、闘病の記録や今後の生き方、日本の未来への提案をつづった著書『余命10年。多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』の一部を再編集してお届けする。第5回。#1#2#2#3/#4/#6 ※順次公開予定

夜の渋谷スクランブル交差点
Unsplash/Jezael Melgoza ※写真はイメージ

お金を貯めこむより、有意義に使った方が得になる

日本の経済・社会は大きな時代の変わり目に差し掛かっている。なぜなら、5つの大きな構造変化が同時進行で進んでいるからだ。少々小難しい話になるが、ひとつひとつ説明していこう。

第1の構造変化は、「デフレからの脱却」。

30年続いたデフレが、インフレに転換するということは、人や企業の行動原理が、これまでとは正反対にならざるを得ないということ。

最たるものがお金の使い方だろう。

デフレの時代は、モノの値段が下がり続けるから、なるべくお金は使わず、持っておくのが合理的だった。対してインフレになると、モノの値段はどんどん上がるため、お金の価値は下がってしまうのだから、お金を貯めこむより、有意義に使った方が得になるというわけだ。

問題はデフレが30年も続いたので、30代半ばまでの若い世代はインフレの時代の感覚がわからない。企業もすぐには行動原理を変えられない。この変化への対応は大変だ。

2050年には世界各国の人口が減少

2つめは「人口減少」。

日本の総人口は2011年からすでに減少しているが、このペースは今後さらに速まると予想されている。実はこれは、日本に限ったことではない。

中国は2021年に人口がピークに達し、韓国は日本以上に低い出生率にあえいでいるなど、東アジア全体でも遠からず人口減少が始まるだろうし、2050年にはアフリカやアジアの一部を除く世界各国の人口が減少し始めると言われている。

となると、世界レベルでの労働力の奪い合い、特に優秀な人材の奪い合いが確実に起こる。

日本はこれまで安い労働力を外国人に頼ってきたことで、生産性の低さを補ってきたが、それは難しくなる。第一、世界規模で引く手あまたの優秀な外国人に、すごく貧しくなった日本を選んでもらえる可能性は高くないだろう。

自由主義国家と覇権主義国家の分断

3つめは「グローバル化の変質」だ。

1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦崩壊、1990年代初頭からの中国の改革・開放路線によって東西冷戦が終焉し、30年ほど前から急速にグローバル化が進んできた。

結果、企業はグローバル・サプライチェーンを構築し、新興国で製造された安価な製品を世界中が享受することができた。

ところが、トランプ前大統領の時代に米中対立が経済面で始まり、今や安全保障の面にも拡大。2022年にロシアがウクライナに軍事侵攻したことで、世界の対立に拍車がかかり、自由主義の西側諸国(G7が筆頭)と独裁者が率いる覇権主義国家(中国、ロシア、北朝鮮など)の対立は激化する一方だ。

この状況は、中国の習近平が国家主席の間は、激化こそすれ改善するとは思えない。

いわば、自由なグローバル化の時代は終焉し、自由主義国家の経済圏と覇権主義国家の経済圏に分断された、ブロック化の時代に入っていくことになる。

となれば、安全保障の観点から重要な先端半導体などに限定せず、エネルギーや食料などの自国生産も、重要な課題になっていくだろう。

日本にとって大きなチャンス

第4の変化はDX(Digital Transformation)、デジタル化である。

日本は過去30年にわたって世界のデジタル化の潮流に乗り遅れ続け、すっかりデジタル後進国となってしまった。

世界のデジタル競争力ランキング(スイスのIMDが毎年作成)を見ると、日本の総合順位は32位で、1位の米国はもちろんのこと、10位以内に入っているアジアの国々にも大きく水を開けられている。

ただ、コロナ禍を機に、抵抗勢力に阻(はば)まれていた遠隔勤務や遠隔教育、遠隔医療などが一気に実現した。これは、日本にとって大きなチャンス。

AIの急速な進化からもわかるように、デジタル技術は日進月歩で、今なら、10年前よりもずっと高性能で安価なデジタル製品・サービスを導入可能だ。このタイミングで、各業界でデジタル化を普及させ、“後発者の利益”を享受できれば、日本の経済や企業の復活は、十分可能だと思う。

国別デジタル競争力ランキングのグラフ

若者の価値観は大きく進化している

5つめの変化はGX(Green Transformation)、気候変動問題への対応だ。

近年の世界的な異常気象からも明らかなように、温室効果ガスの削減は、地球規模で取り組むべき深刻な課題となっている。

日本は、2050年にカーボンニュートラル実現を公約に掲げているが、環境先進エリアの欧州や米国では温室効果ガスの削減は当たり前のことで、すでに次の段階に入っている。

ゴミゼロに代表される「循環経済(Circular Economy)」、環境や人権に配慮した商品を重視する「エシカル消費」が提唱されている。

オランダの首都アムステルダムは、経済成長は目指さずに地域の住民が安心して暮らせる「循環都市(CircularCity)」を2050年までに実現すると宣言している。

これらの変化を受け、欧米の若者の価値観は大きく進化している。

住むなら環境のいいところ、食べ物は値段が高くても無添加やオーガニック、仕事は収入も大事だけど、社会の役に立っていると実感できるかが重要、といった具合だ。そして、それがSNSなどを通じて日本の若者にも広まっている。

このように、若い世代の価値観が、物質的な豊かさを求めた僕らの若い頃とはかなり違うことを考えると、彼らが社会の中心になる10年後には、世の中の価値観は大きく変わっているはずだ。

イノベーションを起こせるのは若い世代

これだけ大きな構造変化が5つも同時進行で動いているのだから、おそらく10年もしないうちに、日本社会の価値観、ビジネスや経済の在り方は大きく変化するはず。

それが意味するのは、日本経済が本当の意味で復活して繁栄を続けるには、今まで以上にもっと多くの斬新なイノベーションの創出が必要かつ重要になるということだ。

イノベーションとは、今までにないまったく新しいモノを生み出すことではなく(それは発明に該当する)、経済学的には、すでに世の中に存在するモノの斬新な組み合わせを生み出すことを指す。そして、その組み合わせを思いつくかどうかは、人のクリエイティビティがカギを握っている。

このクリエイティビティ、アメリカのとある心理学者の研究では、高齢者よりも若い世代の方が長たけていると証明されている。

つまり、これからの時代、企業に限らず、どんな組織や業界でも、若い世代の力がますます重要になってくるということだ。

ちなみに、上場企業の年齢(創業から今に至る年数)の中央値を見ると、米国のS&P500種の構成企業が29歳であるのに対して、日本の日経225銘柄の企業は80歳。

日本経済が、アメリカから大きく後れを取っている理由は、ここにもあるのだろう。

政治家や官僚、大企業の力だけでは日本経済は復活しない。若い世代がもっと活躍することこそが必要なのだ。

そうした挑戦は、若い世代の君たちが、人生をエンジョイする絶好の機会になると思う。だから、自分の力を発揮できる仕事にトライし、どんどんイノベーションを起こしてほしい。

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TEXT=岸博幸

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