吉田麻也をはじめ、南野拓実、冨安健洋、菅原由勢ら日本代表メンバー、 英国プレミアリーグの超一流選手たちからもオファーが殺到する治療家・木谷将志氏が、日本人の3大不調「腰痛」「肩こり」「股関節痛」がみるみる改善する“身体ほぐし”を伝授。ポイントは“筋肉の端っこ”をほぐすことだという、木谷流リカバリー術とは? 『世界が認めた神リカバリー』(サンマーク出版)の一部を抜粋して紹介する。【その他の記事はこちら】

吉田麻也選手の股関節痛の正体
吉田麻也選手との出会いは、グロイン・ペイン(鼠径部痛症候群)がきっかけだった。当時、プレミアリーグのサウサンプトンで1年目のシーズンを終えた吉田選手は、股関節まわりの痛みに悩まされていた。当然さまざまな治療を試みていたが、再発したりして、主原因を根治することができないままでいたそうだ。
そんな折に、私の勤務する接骨院に通っていた元日本代表ミッドフィルダー・藤田俊哉(としや)選手の引退試合が日本で行われた。私はそこにメディカルスタッフとして参加していた。帰国中の吉田選手もその試合に出場していたため、会場で挨拶を交わし、後にグロイン・ペインを治療することになる。
それが吉田選手と私との最初の出会いだった。
今だから話せるが、当時の彼のグロイン・ペインは日常生活に支障をきたすほど深刻で、コホンと咳(せき)をするだけで痛みが走っていた。それだけ、プレミアリーグという舞台はアスリートにとって過酷なのだと痛感したことを覚えている。
吉田選手の身体を施術することになり、いつものように感覚を研ぎ澄ませながら、鍛え込まれた彼の肉体をスキャニングしていく。
「どこの関節がつまっているのだろうか」
「その関節のつまりは、どの筋肉がどうやって引き起こしているのだろうか」
グロイン・ペインはたいていの場合、太ももの裏側にあるハムストリングや内ももにある内転筋、お尻の大臀筋などが原因になっていることが多い。そうして本当の原因を探っていくうちに、意外な答えに突き当たった。
「吉田さん、グロインの原因は“お腹”にあるのかも……」
股関節の痛みで悩んでいるのに、その原因がもっと上にある「お腹」だなんて……。そう吉田選手に告げると、じつは彼も「そのあたりが気になっていた」のだそうだ。
トップアスリートは、本当に繊細な身体感覚を持ち合わせている。
私は、探りながら「ここが硬くなっているな」と違和感を覚えた腸腰筋(このときは大腰筋)の起始部あたりを入念にほぐし、なんとか施術を終えた。
その後、喜ばしいことに吉田選手のグロイン・ペインは快方に向かい、再発することもなくなった。以来、それが縁となって彼の治療を続けさせてもらい、のちにはトレーナーとして個人契約を結ぶに至ったという経緯がある。
重たい腰痛を楽にする「ポイントD」
さて、吉田選手のグロイン・ペインの原因がお腹にある腸腰筋だとお伝えした。それがどのような状況なのか、詳しくお話ししていこう。下の図を見ていただければおわかりのように、太ももの付け根のライン上に腸腰筋の「停止部」がある。
昔の競泳用の水着のライン、とでも言おうか。インナーマッスルや深層筋と呼ばれるくらいなので、腸腰筋の大部分は身体の深部にあって、通常、触ることはできない。しかし、この鼠径部の「停止部」においてのみ、深く指圧することで筋肉そのものに物理的にかなり近づけるのだ。
ターゲットになる「腸腰筋の停止部」が身体の深いところ(Deep)にあるので、ここを仮に「ポイントD」とでも呼ぶことにしよう。この存在を知っているかどうかで、読者の皆さんの今後のQOLがガラリと変わる可能性がある。
それは、ポイントDに刺激を入れることで、座りすぎによる慢性的な腰痛、ギックリ腰のような急性的な腰痛から解放されるかもしれないからだ。

「炭酸水のペットボトル」で腰痛を退治する
それでは腸腰筋をほぐすセルフケアをお教えしたい。
繰り返しになるが、腸腰筋というのはインナーマッスルなので、そもそも触ることはできない。だが、腸腰筋と腰痛というのは切っても切れない関係にあると私は断言する。
これはクライアントのアスリートであっても、読者の皆さまであっても同じだ。
だからこそ、その腸腰筋を刺激する、あるいはほぐすために何かしらアプローチできないだろうかと、今まで試行錯誤を重ねてきた。そして、やっとたどり着いたのが、次に紹介する腰痛トリートメントだ。
まず四つ這いになって、お腹に力が入らないようにできるだけリラックスする。このとき普段は身体の奥のほうに収まっている腸腰筋が、重力のおかげで少しだけ体表近くに寄せられてくる。床のほうに「ぶら下がっている」そんな感じだろうか。
アスリートへの施術のときは、私の手で直接、この腸腰筋を掴みにいく。
しかし、読者の皆さんにおかれては、自分の手で掴むことはできないので、
① 刺激を入れるためのペットボトル
② 高さを出すためのクッションやタオル
以上の道具をご用意いただきたい。
ペットボトルは、できれば「2リットル」サイズを使えると、最も安定して刺激を入れることができるだろう。だが用意できない場合は、クッションやタオルを何枚か重ねた上に「500ミリリットル」サイズのペットボトルを置く形にするとよい。
細かいことだが、ペットボトルは絶対に「炭酸系飲料」のものにしてほしい。理由は、通常のペットボトルよりも非常に硬いからだ。お水やお茶のペットボトルで試してみたものの、軟らかいのでグシャっと変形してしまい、まったく効果が上がらなかった。
大切なことはトリートメントの開始位置についた時点で、すでにペットボトルの蓋がお腹をグイグイと押しているくらいの高さに調整しておくことだ。やってみればわかるが、スタート時の高さが足りていないと、うまく刺激を入れることができないのだ。
またこの腸腰筋の起始部はおそらく、あなたの身体史上で圧力をかけて押されたことがない場所である。だから、信じられないほどカチカチに硬くなっている可能性はある。その場合、最初はもしかしたら相当に痛いかもしれないので、無理がない程度に行ってほしい。刺激を入れた後に、足や股関節が動かしやすくなっていたら、上手くいっていると喜んでほしい。
ただし、もし痛すぎて続けられないようならば、軽く押したあと、1~2日のインターバルを取ろう。そうやって軽めにでも何度か試していけば、そのうちに筋肉のこわばりがほぐれ、痛みは少なくなってくる。
また、言わずもがなだが、妊娠中の方や何度やっても痛みが強くて動くこともできない人は、決してやらないこと。
このトリートメントによって腸腰筋の緊張がほぐれてくると、股関節や骨盤のあたりがかなりスムーズに動き始めるだろう。そうなってくれば理想的で、腰痛や股関節痛から解放される可能性が高くなる。

国際治療家/My Natural Clinicディレクター。世界のトップアスリートから厚い支持を得る治療家。プレミアリーガーを筆頭に、世界中のサッカー代表選手とプライベート契約を結ぶ。クライアントには欧州の代表チームのキャプテンや国民的人気選手も名を連ねる。英国を拠点にしながら欧州各国や米国に赴き、足も使う独自の施術でリカバリー治療に当たっている。日本時代は柔道整復師として10年以上にわたりJリーガー、プロ野球選手、大相撲力士ら幅広いトップアスリートを施術。治療をきっかけに吉田麻也選手と出会ったことで後年、専属トレーナーに。2020東京オリンピックや2022カタールW杯などで、当時日本代表キャプテンの吉田選手を全面的にバックアップした。多数の日本代表選手からも熱心に支持されており、トップ選手たちを陰で支える。



