吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。今回はタイガー・ウッズ以来のスーパースターと期待される、スウェーデンの新生ルドビグ・オーバーグも実践するコンパクトトップの作り方を紹介する。
ルーキーイヤーで大物の片鱗を見せたアバーグ
PGAツアーでは毎年有望な新人選手が参戦するが、1年目から活躍できる選手はほんの一握りだ。
そうしたなか、2023年ルーキーながら欧州ツアーとPGAツアーで勝利し、欧米対抗戦のライダーカップのメンバーにも選ばれるなどの活躍を見せたのが、スウェーデン出身のルドビグ・オーバーグだ。
スウェーデン南部のエスロブという人口約3万人小さな町で育ったオーバーグは子供の頃からゴルフを始め、地元のゴルフクラブで腕を磨いていたという。
15歳のときにコーチのハンス・ラーソンに師事し、高校時代にはスウェーデンのナショナルチームの一員にも選ばれた。
その後、アメリカのテキサス工科大に進学し、在籍時にアメリカの最優秀学生ゴルファーに贈られるベン・ホーガン・アワードを2022年から2年連続で受賞し、世界アマチュアランク1位にも輝いた。
2023年にはジャック・ニクラス・アワード、ハスキンズ・アワードも受賞し、ベン・ホーガン賞と合わせた3つの学生主要タイトルを独占した史上6人目の選手となった。
2023年は大学4年生ながらPGAツアーや欧州ツアーに参加し、PGAツアーユニバーシティでも1位になってPGAツアー出場資格を獲得。そのままプロに転向した。
彼がツアー出場の資格を得たPGAツアーユニバーシティは、アメリカの大学生ゴルファーの成績をランキング化し、上位の選手にプロ入りの門戸を開こうという制度で2020年に創設された。
当初は下部ツアーへの出場資格を付与するというものだったが、2023年からは1位の選手にPGAツアー出場権が与えられるようになった。オーバーグはその第1号の選手となったが、アバーグの活躍によって、今後はPGAツアーユニバーシティを経由してプロ入りするルートを目指す選手が増え、彼に続く有望な選手が次々と現れることだろう。
ルーキー初の欧米両ツアーの優勝
オーバーグはプロ転向後もPGAツアーのジョンディアクラシックで4位タイに入るなど安定した成績を残すと、2023年9月には欧州ツアーのオメガ・ヨーロピアンマスターズで逆転優勝。
主将推薦で出場したライダーカップでは、ビクトル・ホブランとのコンビでスコッティ・シェフラー&ブルックス・ケプカ組を撃破するなど欧州チームの勝利に貢献した。また、11月のフェデックスカップ・フォール最終戦、ザ・RSMクラシックでは2位に4打差をつけてPGAツアー初優勝を果たした。
実はライダーカップに選ばれたとき、彼はまだ欧州で1勝を挙げたばかりだった。実績の乏しいアバーグがなぜメンバーに選ばれたのかについては、セルヒオ・ガルシアやイアン・ポールター、リー・ウエストウッドらがLIVゴルフに移籍したため出場できなくなり、欧州選抜の層が薄くなったことが原因という見方もある。
しかし、キャプテンのルーク・ドナルドは早くからオーバーグに注目していたという。
ドナルド自身もヘンリク・ステンソンのLIVゴルフ入りで急遽キャプテンに就任したという経緯があり、LIVゴルフはゴルフ界に様々な影響を与えてきたといえる。
ちなみにオーバーグは学生時代とプロ入り後の2度にわたりLIVゴルフに誘われたそうだが、「最高の選手と競い合いたい」と断ったそうだ。
デビュー1年目でPGAツアーと欧州ツアーの両方で優勝するのは、オーバーグが初めての快挙で、世界ランキングも29位まで駆け上がった。もちろん、2024年はメジャーにも挑戦することになる。
一部では、タイガー・ウッズ以来のスーパースターとも呼ばれているようだが、いきなりメジャー制覇することも夢ではないだろう。
コンパクトなスイングからの飛距離と正確性が武器
オーバーグの強みは310ヤードを超える飛距離と正確性。2023年のスタッツを見ると平均飛距離の順位317.1ヤード(6位)とフェアウェイキープ率の順位(27位)の合計値であるトータルドライブが全選手中ダントツの1位となっている。
また、平均バーディー数とパーブレイク率もパトリック・カントレーやジョン・ラームらを抑えて1位。1年を通して戦ったら、どのような数字になるのかが楽しみだ。
ザ・RSMクラシックで2位となった33歳のマッケンジー・ヒューズは、そんなオーバーグについて「彼は現代ゴルフの代表。遠くに飛ばすだけでなく、真っ直ぐ打ち出すショットは印象的だ。持つべきものすべてを持っている」と語り、完全に白旗を上げた。
彼のスイングの特徴は体と腕がシンクロしたコンパクトなトップだ。スイングに無駄がなく正確性が高いうえに、下半身をしっかり使いながらクラブリリースをすることで飛距離も出る。スイングの完成度はPGAツアーの中でもトップクラスだ。
体と腕のシンクロと切り返しの始動がコンパクトトップのポイント
近年のPGAツアーでは、トップをコンパクトにする選手が増えている。トップをコンパクトにする理由は、スイングの再現性を高めるためだ。
コンパクトトップにするために大事なポイントは、体と腕をシンクロさせることと、ダウンスイングで下半身が動き出すタイミングの2つだ。
体と腕のシンクロを保つには、脇をしっかり締め、スイング中に両肘と胸にできた3点の空間を変えないことが重要。
腕を振ってスイングをすると両肘の間隔が広がりやすくなるが、3点でできた空間をキープしたままスイングをすれば腕が上がりにくくなるので、自然にコンパクトなトップとなるはずだ。
コンパクトトップは体と腕のシンクロに加え、下半身の使い方も大事なポイントになる。
下半身はバックスイングで腕と地面が平行になるあたりで切り返し動作を始めるようにする。クラブが上がりきらないうちに切り返すように感じるかもしれないが、下半身が動きだしても、上半身は惰性でバックスイングの動きを続けるためクラブは上がり続ける。
その結果、トップの位置がコンパクトに収まるのだ。逆に下半身の切り返し動作が遅れると、トップの位置が高くなりすぎてしまい、オーバースイングの原因となる。
コンパクトなスイングは、パワーがあり、飛距離よりも方向性を重視したいというゴルファーに向いている。自分の適性も見極めたうえで、取り入れてほしい。
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吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。